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それは、黒く燿く意志 ◆NaOxi39aYw ショッピングセンターを目指して南下していた海原光貴は、進路方向の上空に人影を見つけた。 それも二人分。変則的な軌道で飛び回っている。 暗くて良くは見えないが、どうやら飛べる方が飛べない方を振り落としたようだ。 続く急降下と、 ――ォォォォン ほんの少し遅れて地響きが伝わる。 「さっそく始めているのですか。殺し合いがこんなに簡単に行われているなんて、御坂さんは大丈夫でしょうか」 海原は思わずため息を漏らした。 (いや、自分なんかよりも彼女はよっぽど強いですし、いくら心配したところで彼女にとっては迷惑なだけでしょう。) ――それでも、彼は彼女の身を案じずにはいられない。 海原はもう走り出している。 殺し合いに乗っている危険人物は排除しなくてはならない。ショッピングセンターは目と鼻の先だが、悠長に買い物している場合ではなかった。 ◇ E-1エリアは最初に海原が飛ばされた岬を最高になだらかな傾斜があり、F-1エリアよりも少しだけ高い丘である。 地図にある橋が、ただの橋ではなくてつり橋だったのもそのせいだ。 この島では基本的jに火山のある方角から海に向かって高低差があると思って良いだろう。 幸運なことに、海原はさほど近づくまでもなく戦闘現場を見渡すことができた。 もちろん、周囲が薙ぎ倒されて開けた場所になったのと、何よりも人物の縮尺のおかげだったが。 そして。 海原の出番がくるまでもなく、じきに戦闘は終了した。 破壊の嵐が吹き荒れた戦場に立つのは1人だけ。 一方は、南東の海上へと撤退していく。 他方は、飛び去る敵に向かって吼え続けている。 海原はブレザーの下に納めた拳銃を強く握り締めていた。 手のひらがじっとりと汗で濡れている。 残る巨人はこちらに気がついていない。 無防備な背を向けて、未だ海上の敵と睨み合っている。 ――行くなら、今しかない。 ◇ 結局のところ。 海原は踵を返して、見つかる前に離脱する他なかった。 今は、ただひたすらに走りつづけている。 ◇ 「ショッピングセンターでの戦力補強はもうダメですね。 地形を考えても、巨人は自然と近いそこへ向かってくるだろうし、あの広い空間で目的の物を探すのは時間がかかります」 探しているうちに遭遇する訳にはいかない。 少なくとも、彼に対抗し得る武器が手に入るまでは。 「それに、刃物とロープならば別にショッピングセンターでなくとも手に入りますしね」 走りながら探していたものを、手ごろなアパートの一階で見つけると、海原はすかさずベランダに飛び込む。 街中同様に、部屋の中にも人はいない。 ベランダに架かっていた長さ5m程の洗濯ロープを二本、ついでに干してあったタオルを数枚回収する。 そのまま窓から侵入。乱雑で狭い部屋を抜けて、キッチンへと辿り着く。 こちらもすぐ見つかった。 特別よく切れるわけではない、ありきたりな包丁。だが、それでも十分。 鞘は無かったので、柄ごとタオルを巻いてズボンのポケットへ仕舞い込む。 これで、とりあえずの準備は出来たと言えよう。 一息ついたところで先の光景を思い出す。 「それにしても……あれが聖人というものなのでしょうか。 ヒトという枠を大きく逸脱しています。 もう一方は学園都市製の駆動鎧……? それもサイズが桁外れな上、見たこともないタイプですが」 まさに巨人。それより更に頭一つ分大きな方は、フォルムも相まってもはやちょっとしたSFロボットの領域だ。 実際のところ、海原が目撃できたのは戦闘終了間際のほんの僅かにすぎない。 しかし、彼らと周囲の禍々しい痕を見ただけで、十分だった。 武器は手持ちの拳銃だけ、それであの距離ではどうにもならない。 彼らを仕留めるには遠距離からロケットや機関砲を叩き込むしかないだろう。 「殺し合いに乗った危険人物の排除、ですか」 自分の甘さを痛感する。 拳銃なんて物がまるで役に立たない参加者が、現に二人も、こうして暴れまわっている……! 自分の理解を超えた参加者は、きっとまだ大勢いるのだろう。 「やはり、最優先であの魔術を使えるように動くべきでしたね」 今は使えないが、海原には彼らを倒し得る術がある。 例えば、ある魔術師が「水性インクでルーンを刻んだカード」を用いて『魔女狩りの王』を使役するように。 海原光貴は「黒曜石のナイフ」を使って『トラウィスカルパンテクウトリの槍』を放つことができる。 それはどんなものでもバラバラに分解するという必殺の術だ。 「黒曜石のナイフがあれば……、『トラウィスカルパンテクウトリの槍』の術式ならば……!」 手元に無い物をいつまでも悔やんでいるわけにはいかない。 そんな暇があるなら、黒曜石を入手し得る可能性を考えるべきだ。 ところで、黒曜石とは火山岩の一種である。 割れやすいが、それ故に鋭い切っ先となる加工しやすい石。 原始人が扱う石器素材として有名で、世界各地でナイフや矢じり、槍の穂先などの石器として長く使用された。 一説にはアステカが強大な軍事国家を作れたのは、この黒曜石の鉱脈を豊富に掌握していたからだともいう。 そう、「黒曜石のナイフ」には考古学的史料価値があるのだ。 ならば――博物館といった施設があれば展示されているのではないか? そこまで考えて、地図上にそんな施設が記されていないことに落胆する。 (……いや、学校はどうでしょうか? なにも専門の研究施設でなくとも良いのです。ある程度以上の学校ならば資料として置いて在るでしょう。 或いは、歴史ではなく地学の分野でも、岩石標本という手があります。 ナイフでなくとも、矢尻や穂先、いっそ岩石でも「黒曜石」であれば構いません。 流石にそのままでという訳にはいきませんが、原始の人間にできて現代の自分に出来ぬ道理はありませんね。) 「小学校ならアウト。しかし中学校以上なら目があるはずです。 この島には学校が少なくとも二つはあります。どちらかで当たりを引ければ良いのですが」 他には……と考えて、線路に目が留まる。 (この路線、東西の市街を結ぶのが便利だろうに、それよりも何もない山間部を優先してありますね。 それも村や墓地といった施設を無視し、トンネルを掘ってまで。それは何故でしょうか。) 「おそらくは、資源を輸送する為でしょう。工業や宇宙開発のエリアには必須です。 地下資源か、もっと別の何かかもしれませんが、周囲にはなんらかの採掘場があるはずです」 もしかしたら。 実際に火山の周辺で石器が出土している以上、この島でも黒曜岩が見つかることがあるかもしれない。 帝愛グループとやらが、わざわざ火山のある島を選んだ理由も気にはなる。 「決まり、ですね」 まずはE-2及び、E-7の学校を回って、それでもダメならば火山へと足を延ばす。 ちょうど線路に沿った形での移動になる。当然ながら多くの参加者と接触するだろう。 情報収集にも励まなければならない。もちろん、殺し合いに乗っていなければ、だが。 自然と銃へ手が伸びる。 「あぁ、他の参加者に支給されている可能性もありますね。 その場合はなんとしても譲ってもらいましょう――この銃弾と交換してでも。」 ◇ 魔術とは、才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術。 魔術を欲するのに今ほど相応しいときがあるだろうか。 なんとしても魔術を取り戻さなければならない。 彼らを放置していては、その凶刃がいずれ彼女に迫るかもしれないからだ。 それだけは。 それだけは、何があっても許されない! 魔術師殺しの彼では、かの純然たる暴力の塊には適わないだろう。 自分がやるしかないのだ! ◇ 彼は、ひたすらに走りつづける。 脅威から逃げるのではなく、取り除くために。 そして現在はE-2の中心部。 「もう少し、ですね。学校や駅を目指して人が集まっている可能性があります。気を引き締めて行きしょう。」 一度呼吸を整えると、海原はまた力強く足を踏み出す。 自分が頑張れば頑張った分だけ、それは彼女の安全にも繋がる。そう信じて。 【E-2/中心 住宅地/一日目/深夜】 【海原光貴@とある魔術の禁書目録】 [状態]:健康、疲労(小) [服装]:ブレザーの制服 [装備]:S&W M686 7ショット(7/7)in衝槍弾頭 包丁@現地調達 [道具]:支給品一式、コイン20束(1束50枚)、大型トランクケースIN3千万ペリカ、衝槍弾頭予備弾薬35発 洗濯ロープ二本とタオル数枚@現地調達 [思考] 基本:御坂美琴と彼女の周りの世界を守る 1:なんとしても黒曜石を調達する 2:人と出会い情報を集める 3: 殺し合いに乗った危険人物、特にバーサーカーと本多忠勝の排除 [備考] ※この海原光貴は偽者でその正体はアステカのとある魔術師。 現在使える魔術は他人から皮膚を15センチほど剥ぎ取って護符を作る事。使えばその人物そっくりに化けることが出来る。海原光貴の姿も本人の皮膚から作った護符で化けている。 ※F-1で目撃できたのは、バーサーカーの再生よりも後からです。 時系列順で読む Back 今は亡き王国の姫君 Next 凶壊ロゴス(1) 投下順で読む Back 涙――tears―― Next 凶壊ロゴス(1) 010 我が身の全ては想い人の為に 海原光貴 082 こんなにロリコンとシスコンで意識の差があるとは思わなかった……!
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いざや開かん、冥底の門 ◆L5dAG.5wZE 見据える先に島がある。 今立つこの崖からおおよそ100m。橋も船もなく、ただ視線のみがそこに届く。 城――ショッピングモールから出陣した魔王、織田信長。 その足が向いた先は、南東。 裏切り者マリアンヌが進言した廃ビルとやらに出向くつもりはさらさらなく、時間を置いた今ならあの化け物も移動しただろうという目算があった。 ショッピングモールを攻め落とした際、信長の前に立ち塞がった者はいなかった。 休息を取っている間に有象無象どもは我先に逃げだしたのかもしれない。 そう思った信長は行き先を島の東、施設が多く集まる市街地へと定めた。 十分ほど走っただろうか、何やら徹底的に破壊された鉄の道――線路へと出た信長。 鉄のダルマのようなものがいて、 『線路の破壊に伴い、D-2からF-3間の列車運行はストップします。 F-3からB-4間はダイヤの調整のため一時列車をストップし、第一放送後から運行を再開します』 という掲示を行っていた。 この面妖な鉄の塊は立札の一種か、と見た信長は珍しく刀を抜くこともなくしげしげと見つめ、その内容を吟味する。 荷物から地図を引っ張り出して位置を確認。 「れっしゃ……馬車の類いであるか? が……肝心のれっしゃが見当たらぬな」 東へ向かおうと思えばF-3の駅からその列車に乗るのが一番手っ取り早いだろう。 信長は休憩がてらショッピングモールから大量に持ち出してきたハンバーガーへと齧りつく。 それほど腹は減ってはいないが、ここに来るまでの十分で既に軽い疲労を感じている。 万全を維持するために、食料はいくらあっても無駄にはならない。温存など考えず、瞬く間に数個、胃袋へと収めた。 「……ん?」 そして線路上を歩き始めた信長が見つけたのは見覚えのある蹄の跡。信長が数刻前に駆っていた馬の蹄痕だ。 マリアンヌと、彼女と結託した小娘によって奪われた信長の馬。どうやら奴らが逃走した道らしい。 湧き上がる赫怒。もはや追いつけまいとはわかっていても、信長はゆるりとその後を追うように歩き出した。 やがて崖に立つ。 島を見下ろし信長はどうにか渡る方法がないものかと思案する。 橋も船もないのは先に言った通り。 泳いでいくことは不可能ではないだろうが、鎧と刀を着て水練というのも馬鹿馬鹿しい。 何より無様に濡れ鼠になるのは御免だ、この征天魔王ともあろうものが。 しばし考えて、信長は崖を下り水面近くの浅瀬へと降りた。 鎧を脱ぎ、デイパックへ入れる。刀や装備も同様に。 このデイパック、いかなる技術によるものかいくら物を入れても底が見えず、中に入れたものの重量を無視することもできるらしい。 ショッピングモールでの戦利品はかなりの量になるのだが、口に手を突っ込み望む物を思い浮かべれば吸い付くように手の中に収まってくる。 ともかく身軽になった信長は軽く屈伸し、身構えた。 そして、 「この征天魔王の前に壁は無し――いざ往かん!」 走り出す。 超人的な脚力は石砂を爆発させたかのごとく吹き飛ばした。 小石が落ちるその前に信長の脚が伸び、神速で引き戻される。 水面を叩いたかと思えば一瞬で離れる。 しかし反動は確かに脚を押し上げ、身体が沈むことはない。 右足、左足、右足、左足、右足、左足、右足、左足、右足、左足、右足、左足、右足、左足、右足、左足、右足、左足。 霞むような速度で踏み出される一歩は硬質の音を響かせ過ぎる。 音が一つ鳴るたび、信長の身体は着実に前へ。 「おおおおおお――――」 水柱が次々に生まれ、噴き上がる。 傍から見ていれば何が起こったかわからないだろう。いや、わかっていても納得できるかどうか。 上半身を剥き出しにした壮年の男が、狂笑を浮かべ駆けていく。 ただ一つ異質だというなら、それは大地の上ではなく水面であるということ。 当然ながら、人は水に浮くような生き物ではない。 死体になり身体からもろもろのガスが抜ければ別だろうが……基本的には体重に負け、沈んでいくものだ。 しかし、沈むよりなお早く脚を踏み出せるのならば話は違う。 トカゲの一種には水面を走るものがいる。 彼らの脚には小さな毛が無数に生え、水に触れると開き抵抗を増す。 その上で1秒に20回という数のステップを踏み、それでようやく水面を走れるのだという。 「――――おおおおおおおおおお――――」 しかしこれはあくまで水上走行に特化した末の進化。当然人に当てはまる公式ではない。 人が水上を走ろうと思えば毎秒30mを走り抜けるほどのスピードが必要であると、とある雑誌Sで発表された。 人間が本来持つ脚力の、およそ15倍。 100mを10秒で走ることができればアスリートとしては最上位に近いと言っていい。 1秒に10m。要求されるのは更にその三倍。 いくら鍛えたところで到底人間が到達できる領域ではない。 だが、 「――――おおおおおおおおおああああああああああああああああァァッッ!」 ここにいるのはもはや人と同じ物差しで測ることすら馬鹿らしいほどの不条理。 その拳は岩を砕き、その蹴りは大地を割る。 刀を取れば嵐を起こし、雷轟き紅蓮舞う。 そう、戦国の世に生きる武将とは既にタダビトにあらず! 跳躍、着地。ドバッと砂浜に穴が開く。 瞬く間に海面を走破し、信長は孤島へと降り立った。 振り向けば最初の水柱がようやくにして霧散した。続く柱も呼応するように次々にその身を崩し、飛沫となって飛び散った。 再び刀と鎧を身につけ、信長は島の捜索を開始した。 痴れ者がいれば即座に斬り捨てる気であったが、意気と裏腹にどこにも生者の気配はなく。 遺跡の入り口らしき巨大な石扉の前で信長は捜索を切り上げた。 「ふん……無駄足であったか。まあいい、なれば東へ向かうのみよ」 マリアンヌとユーフェミアなる小娘の痕跡は既になく、この石扉も封じられているのか押しても引いても開きはしない。 斬るか、と考えた信長だが堅牢な扉を壊すには相応の力を必要とするだろう。 見たところ最近開けられた形跡もない。この中に誰ぞいる可能性は低いと見ていいだろう。 余計な手間を踏んだ、と信長は手近にあった岩を蹴り飛ばした。 苛立ち紛れに八つ当たりされた岩は哀れにも粉微塵に砕け、破片も瞬時にマントの一撃によって消え去った。 「……ん?」 しかし、短慮が功を奏したか。 岩が砕けた後、そこにはぽっかりと口を開けた奥へと続く穴があった。 どうやら隠し通路らしい。 「ふむ……よかろう、物のついでだ」 言って、魔王は深淵へと分け入った。 ◆ 「ぬう、ここは寺院か?」 隠し通路を抜けた先は開けた場所だった。 どこまでも果てがないかと思える暗い空間。石畳の床に石柱が立ち並び、おごそかな空気を感じさせる。 奇襲を警戒したものの、やはり人の気配はない。 せめて宝物の一つや二つないものかと信長は目を細めたが、装飾品や儀礼用の道具さえも見当たらず。 完全に、空振りだ。 階段を上り――信長は気付かなかったが、その階段は宙に浮いていた――信長は祭壇の天頂へと立つ。 足元の石を投げてみるが、どこにも当たった音はしない。 「奈落……か。チッ、余計な時間を食ったわ」 踵を返しす信長。 脚が一歩、階段を下りた瞬間―― 「……ぬっ!?」 空間が輝きに満たされる。 闇が払われ陽光が満ち、閉ざされていた視界が明瞭になった。 それはまるで――そう、黄昏。 遥か彼方に日が落ちて、二重螺旋の塔が昇る。 浮かび上がったのは神殿。誰の記憶からも忘れ去られる、いつか朽ちゆくモノ。 名を、思考エレベータ。 人の無意識を繋ぎ心の壁を取り去る世界。 信長は知らない。ここが外界より隔絶されたある種の異空間であるが故に。 南の地で炸裂した太陽の破壊を。 変革者と戦国最強が、狂戦士に挑んだ一連の経緯を。 拡散したGN粒子は停止していた思考エレベータに吸収され、一時的に復活させた。 そう、全ての粒子が思考エレベータへと供給され、信長へは届かない。 だから届かない――彼らの想いも、託したいその意志も。 起動した思考エレベータが本来の用途とは別の働きを見せる。 すなわち、空間の接続。 信長の眼前に扉が開いた。 異なる場所と場所を繋ぐワームホール。 視界に映ったのは墓標。死者を弔うある種の儀式だ。信長が何の価値を感じることもない、負け犬の行き着く場所―― 「む、おっ……!?」 ぐにゃりと映像が歪む。内側に、歪む。 砂時計の砂が下に流れ落ちるように、空間ごと吸い込まれる信長。抵抗する間はなく、抗えるほどに易しい力でもなかった。 激しい閃光。思わず目を閉じた。 ――そして、目を開いた時そこは既に未知の景色。 四方を壁に囲まれた、日本風の間取りに囲炉裏、水瓶といった家具。 信長にも馴染みが深い、ごく一般的な民草の家だ。 「……なんだと言うのだ。ここはどこだ……?」 戸惑いつつも引き戸を開けた。手は刀に置かれいつでも抜き放てる。 そこで信長が見たのは、先ほど目にしたばかりの墓石の群れ、墓地だ。 家を出て、辺りを確認する。 ぽつぽつと見える民家、墓石、そして草原。 明らかにあの孤島ではない。 日は穴に入る前と位置を変えた様子はない。さほど時間は経っていないようだ。 地図を参照するに、この景観に当てはまるのはC-6、『死者の眠る場所』というところだろう。 さきほどの孤島から数えておおよそ4、5エリアの距離を一気にまたいだことになる。 「面妖な……これも帝愛の成せる業か?」 一瞬にして離れた場所へ移動する技術。 これは信長の天下取りに置いて非常に有益な技術に成り得るだろう。心中に湧き上がる興奮。 ここなら市街地に近い。おそらく群れ集まる弱者どもも容易く見つけられるだろう。 「ククッ……よかろう、帝愛よ。今は貴様らの計らいに礼を言ってやろうではないか。 だがその力、必ずこの信長がもらい受ける。首を洗って待っているがいい……!」 歩き出す信長。 やがて視界の端にきらりと光るものがあった。 近寄って見るとそれは鎌だ。生乾きの血がこびり付いた、信長も見覚えのある大鎌が、樹に突き刺さっていた。 「これは……」 風に乗って微かに血の匂いがした。おそらくこの鎌に斬り裂かれた者が近くにいるのだろう。 引き抜き、その方向へと足を向ける信長。 さほどの時間もかけず、信長は哀れな犠牲者を発見した。 裏切り者を思い起こさせる桃色の髪をした少女。全身を斬り刻まれ、既に息絶えている。 「……ふん。やはり貴様か、光秀」 鎌の斬れ味、そして光秀の腕を持ってすればこのような小娘の命など一瞬で刈り取れるはず。 であるにも関わらず、嬲るように全身に散りばめられた斬撃の痕。 殺すことではなく、痛みを与えることを目的とした傷。間違えようもない、これはあの下種の所業だ。 「ククク……ハハハハハハッ! いいぞ光秀、未だ息災であるようだな!? 貴様の首を落とすはこの信長よ――死ぬでないぞ! すぐに余が喰ろうてやるわ!」 ブンと鎌を一振り。奴の鎌で以て奴の命を絶つ――中々に興をそそるではないか。 右に長刀、左に大鎌。 魔王は東の地に降り立ち、獲物と元部下を追い求め動き出す。 亡骸にはもう目もくれず、手近にあった筒を斬り飛ばした。 「いざや開かん……冥底の門!」 弾けた黒い液体が少女の遺体を汚す。そして噴き出した闇が一帯を消し飛ばす。 飛び散る雫を舌で舐め取り、信長は次なる贄を探すべく疾走を開始した。 【C-5/死者の眠る場所/一日目/昼】 【織田信長@戦国BASARA】 [状態]:健康、全身に裂傷、満腹 [服装]:ギルガメッシュの鎧、黒のマント [装備]:物干し竿@Fate/stay night、桜舞@戦国BASARA、マシンガン(エアガン)@現実 [道具]:基本支給品一式、予備マガジン91本(合計100本×各30発)、予備の遮光カーテンx1 、マント用こいのぼりx1 電動ノコギリ@現実 トンカチ@現実、その他戦いに使えそうな物x? [思考] 基本:皆殺し。 1:いざ戦場へ ……。 2:目につく人間を殺す。油断も慢心もしない。 3:信長に弓を引いた光秀も殺す。 4:首輪を外す。 5:もっと強い武器を集める。 6:ちゃんとした銃器を探す。 8:高速の移動手段として馬を探す。 9:余程の事が無ければ臣下を作る気は無い。 [備考] ※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。 ※ルルーシュやスザク、C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。 ※視聴覚室の遮光カーテンをマント代わりにしました。 ※トランザムバーストの影響を受けていません。 ※思考エレベータの封印が解除されましたが、GN粒子が近場に満ちたためです。粒子が拡散しきれば再び封印されます。 時系列順で読む Back 闇に潜むキーワード見つけ出そう Next その絆に用がある 投下順で読む Back 船旅 Next その絆に用がある 145 魔王再臨 織田信長 180 「無題」じゃあ今いち呼びにくい! このシュトロハイムが名づけ親になってやるッ! そうだな……『メキシコに吹く熱風!』という意味の「サンタナ」というのはどうかな!
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558 :名無しさんなんだじぇ:2011/10/30(日) 06 50 01 ID .rtOy0/I 美穂子「嫌だわ、磨り潰さないと」 池田「キャプテン?なに渋い声出してるんですか?」 美穂子「うぅん、なんでもないの。ところで華菜?これを御坂さんに届けてくれないかしら」 池田「了解だし!」 【続くとしてもだいぶ後になってから】
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砂時計の砂が落ちていく。 カウントダウン、おしまいの始まりに繋がる砂の流れ。 それは日光という形を持って、私の目には映っている。 空から迫りくる天の杯。 地から伸び行く悪の器。 全てが動き出す刻限を、もう一時間も経たない間に沈み切るだろう太陽が示していた。 ああ、もうすぐ、始まっちゃうんだなって、理解させられる。 いま私の、秋山澪の目の前。がらがらに空いた電車の車窓、そこから見える景色によって。 空中を引き裂くようにして近づいていく白と黒の螺旋。 車窓から見える景色は、まさに驚天動地と言ったところ。 なのにどうしてか、今、私がいる列車の中では、何となく落ち着いた空気が流れていた。 「…………」 ちらり、と。 隣に座る着物姿の女性、式の姿を見る。 彼女は相変わらずじっと、対面の窓の方を眺めていた。 駅から発進した電車が動き出し、数分ほど経っただろうか。 列車は何事もなく進み続け、もうすぐ船着き場近くのF-3駅に差し掛かる頃合いだ。 私と式はロングシートの座席に座って、一人分開けた距離感のまま、ゴトゴトと動く車両に揺られていた。 式から視線を外し、私も彼女と同じように、座席に深く腰を掛け前を向く。 誰もいない対面の座席の、その更にむこう側、窓から見える風景を見つめた。 「――式」 空からは赤みがどんどん失われていく。 やがて薄青さだけが取り残され、それをすぐに夜が塗りつぶしてしまう。 そしたらもう、この静かさも、安らぎも、きっと消えてしまう。 「私……さ、私は――」 窓の向こうは私の見た事のない幻想で。 だけど、この場所は知っている。 揺れるつり革も、ゴトゴト聞こえる音も、差し込む僅かな夕日の色も。 全部、私の大切な、あの普遍的な世界にあったものだから。 「私は、特別を望むよ」 それは私への宣誓であって、彼女への回答。 いつかと同じ答え。 船での時と、同じ思いの、だけど多分、違う重さの。 「何てことない平穏の、特別のない凡庸な、ただの優しい世界を取り戻す」 もう決めてしまったこと、ずっと前から決めていたこと。 だけど今は意味を知って、価値を知って、手に取った選択。 背負い直した思い。 重い、重い、思い。 特別じゃない特別を、もう一度って。 「――そういう、特別を願うよ」 改めて、告げた。 「そうか」 式の返事は相変わらず素っ気なくて。 だけど馬鹿にしてるわけでも、相手にしてないわけでもなく。 ありのままのコトを、私に言った。 「矛盾だな」 「……うん、そうだね」 その式らしい振る舞いが何故か不愉快になれなくて。 私は苦笑いなのか何なのか、分からない表情になってしまう。 「分かってる。 だけどさ、それでもさ、選んでしまったんだ、もう、その矛盾を」 「そうか」 それ以上、彼女は何も言わなかった。 私も何も言わなかった。 視線は合わせない。 私はただ、揺れるつり革と、消えていく夕陽の残光を見つめている。 きっと、彼女も同じだったと思う。 私たちはお互いを見ずに、だけど同じものを見ていた。 このひと時だけは、同じものを感じる事ができたような、気がした。 どうしようもなく違う私たちだけど。 私の好きなこの平穏を、式も同じように、居心地よく思ってくれているような。 そんな気がしたんだ。 だってさっき一瞬だけ見た、夕陽に照らされた彼女の横顔は、今までのような冷たい印象を与える物じゃなくて。 ほんの少しだけ穏やかで、ほんの少しだけ少しだけ優しい、普通の少女のように見えたから。 夕焼けのもたらした、単なる目の錯覚かもしれないけど。 私にはそれが、嬉しく思えたんだ。 『F-3駅に到着しました。船着き場にお越しの方はこちらでお降りください』 不意に電車が止まり。 事務的なアナウンスが車内のスピーカーから流れだす。 ドアが一斉に開くけど、当然、私も式も動かない。 しばらくして、また一斉にドアがしまり、再び列車は動き出した。 『次はF-5駅です。展示場前にお越しの方はこちらでお降りください』 次の駅が到着点となる。 もう一度、私は平穏から視線を外して、見つめた。 窓の向こう。 次第に空から降り始めた、黒い粉。 白と黒の螺旋。 黒の塔の、その根本。 これから私たちが行こうとしている、最後の、戦いの場所。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ [[1st / COLORS / TURN 5 『Listen!!』 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 『F-5駅です。展示場前にお越しの方はこちらでお降りください』 三度目の開閉。 列車のドアが一斉に開くと同時、黒い煤のようなものが車内にひらひらと舞い込んできた。 一瞬、まるで雪みたいだなんて思ったけれど。 知っている、正体はそんな優しいものじゃない。 人の体も心も、壊してしまう毒。 全人類を呪い殺すほどの、膨大な汚濁から剥がれ落ちた一かけら。 そう、私に『全て』を話した神父は言っていた。 これから何が起こるのか、アレがなんであるのか、全てを。 どこか嬉しそうに、楽しそうに、夢見るような何かを滲ませて、私に教えた。 だから私は知っていた。 事が、『こうなる』ってこと。 そして、『これからどうなる』か、すらも。 もちろん神父の言っていたことが嘘でなければ、って前提はあるけれど、彼は多分、本当の事を話したのだと私は思う。 何故なら、そうでなければきっと、私は動かなくて、彼の見たいものは見れないから。 だから、そう、全て。 分かったうえで、私は行こうとしている。 そして、着いてしまった。 戦いの場所に。 この島で、もう何度も行き当たって、その度に忘れられない恐怖を刻んできた場所に。 「まったく……」 苦笑を浮かべる余裕はないけれど、呆れは口から零れ出ていた。 恐怖が、体を縛っている。 ここに来てから『恐れ』という感情は自己計測記録を更新し続け、またしても今、最高記録を叩き出そうとしていた。 ぴりりと、足に痺れが走る。 どれだけ覚悟を固めたって、どれだけ決意したって、恐れる気持ちが無くならないのは分かっていた。 怖いものは怖い。どうしようもないけれど、それでも悔しさはこみ上げる。 今は怖がっている時間すらもどかしいから。 それすら煩わしく思えるくらい、渇望する物があるから。 「オレはここだけど、お前はどこまで行くつもりなんだ?」 「…………ぇ」 不意に聞こえた声は、私の頭のやや上の方から。 既に席を立っていた式の、座ったままの私への言葉だった。 見上げ、式の表情を確認して、確信した。 絶対に私を気遣ってなんかいない。 彼女はただ気になったことを私に聞いただけで、他の意味などないのだ、本当に。 自分が降りる駅で、すぐに立たない隣の席のやつに、ならどの駅まで行くつもりなのかと。 「いや、私もここだ。ここで、降りるよ」 だからこそ、なんだろうか。 私の足の震えは少し弱まっていた、ような、気がした。 「そうか、じゃあさっさと降りたらどうだ? じきに閉まると思うけど」 「うん、ありがと」 「なんの礼だ?」 それは私にもよく分からなかった。 早く降りたらどうだと、忠告してくれたことか。 私を無視して行ってしまわなかったこと、だろうか。 あるいは、私を気遣わず、対等に扱ってくれたことに対して、だったのかもしれない ハッキリとしなかったけど。 私は式の後をついていくのではなく、隣に立って、一緒に電車を降りた。 そうしたいと思ったから。 二人合わせて四本の足がホームのコンクリートを踏んだ直後、列車は次の目的地を告げ、ドアを閉める。 黒い灰が舞い散る中、去っていく電車を名残惜しげに見送りたい衝動に駆られ、ぐっと耐えた。 今は一秒の余分も干渉も許されない。 もう既に戦場へと、入り込んでいるのだから。 その認識は駅を出た瞬間に、嫌でも痛感させられた。 「黒い……」 私の第一声は間抜のぬけた感想だった。 駅前の東側ロータリーからすぐ近くに見える、巨大な黒の塔。 徒歩数分でたどり着ける場所。 電車の中で遠目に見ていた時から激しい嫌悪を感じさせていた建造物の入り口は今、 私の目の前に来て、まるで怪物の口のように真っ黒く開いていた。 その塔は展示場という一施設と融合した、というより展示場を食べた結果として聳え立った、と言った方がいいのかもしれない。 黒いドロドロとした印象の、しかし液体とも言い切れない、固体なのか、気体なのかも分からないナニカ。 常に揺らいでいて本質の見えない幻想。 神父の表現を借りるなら、呪いの具現。 人をあらゆる意味で壊す、そう言われても確かに信じられるほどの、最悪の災厄が目の前にあった。 正直言って、一歩すら近寄りたくない。 普段の私なら、何が何でも距離を取って、視界から消して忘れようと必死になるだろう不快と恐怖。 だけど今は、歩く。 本当は絶対に行きたくないけど、泣き喚きたくなるほど嫌だけど、それでも行く。 体を縛る不快と恐怖以上に、欲しくて堪らない物が、今の私を突き動かすものが、偶然にもその向こうに続いてるから。 誰も住む者のいない、閑静過ぎる住宅街の路面。 灰が舞い散る道を、式の隣、歩き続けた。 黒い塔。雪のように落ちる欠片。不快で、だけど幻想的な風景。 私にとっても、式にとっても、最後の戦いの場所。 不意に。 ひらりと、指先に付着する、灰の欠片。 それは、すぐに、どろりとした液体に形を変えた。 「汚いな」 式曰く。 まだ『産まれていない』この呪いは、今すぐ人に危害を加えはしないらしい。 それでも触り続けたり、吸い込み続けたら悪影響は有る、らしいけど。 兎に角、軽く触るだけで即死したりはしないそうだ。 あくまで、今の段階では。 「でも、なんだか……儚いな」 液体になって数秒、すぐ気化して消えた欠片の行く先を、視線で追ってみる。 その黒を、私は見たことがあるような気がしていた。 対峙した強い意志。どこか私に似ていた、誰かの悲壮。 なのに、私を否定した誰かの、纏っていた黒。 私が壊した誰かの、だけどより強烈に思い出されたのは、ただただ尊く輝いていた、彼女の蒼き片目の色で――― 「やっぱり、雪に似てる」 私はもう、決めてしまった。 あの蒼さとは、違う道。 背負うということ。 戦うということ。 取り戻すということ。 どうしても、どうしても、手放せないもの。 そのために、そのために、私は、全てを――― 「…………」 今、隣に立つ人は何を思っているのだろう。 式は何を思って、最後の戦いに臨むのだろう。 それは当たり前だけど、私の思いとは違う思い。 あの蒼さとも、モモとも、他の誰とも違う、式だけの思い。 それを手に取って、彼女は、ここに居るのだから。 「なあ……式」 足を止めたのは、どっちが先だったのか。 分からないけれど、どっちでもよかった。 展示場、戦いの入り口、その数メートル手前。 私と式は立ち止まる。 「式は、何をしに此処へ来たんだ?」 見つめる横顔。 そこには既に、夕陽が見せた穏やかさは無く。 冷たくて、鋭くて、だけどもう怖くは感じない。 「そうだな……」 私へと向き直り、真っ直ぐに私の目を見る式。 奇しくもその眼は碧く。 貫くように私に捉えながら、いつものように簡潔に、ぶっきらぼうに、彼女は言った。 「今も、醒められないユメを、見る為に」 大事なユメを、生きて見続ける。 その為に。 「このデカいのは邪魔だからな。殺しに来たんだ」 受け止めた私は目を閉じ、ぴくりと、自分の頬に表情が浮かぶのを感じた。 それはもう、この戦いが終わるまで二度と刻まれることのないと、思っていたもの。 式と会う度に浮かべさせられた苦いものじゃない、ただの、何の変哲もない、笑み。 「おい、笑うな」 「笑ってないよ」 「笑ってるだろ」 「笑ってるけど、式を笑ってるわけじゃない」 どうしようもないほど自分の都合で、全人類を呪い殺す災厄を殺しにきたと、軽く言い放った言動が何だか痛快で。 式の事は相変わらず何も知らない筈なのに、『式らしいなぁ』なんて思いが過った自分が可笑しくて。 でも、もしかすると私は式のことを少しくらい知りつつあるのかも、とか、多分勘違いの気持ちが楽しくて。 私はこの段階になって、私の好きな表情になれていた。 「失礼だな。オレそんなに変なこと言ったか?」 「ううん。だけど、式は変なやつだよ」 「やっぱり失礼だな」 いま私が浮かべられた表情。感じられた気持ち。 それが当たり前のように幾つもあった場所、私が当たり前に持っていた、この場所に在る誰に対しても胸を張れる場所。 取り戻すべき、私の大好きな世界を。 もう一度、誇りに思う。 強く、誇る。 だから、行く。 この黒だけじゃない―――全部を壊しに。 私も式と同じ、どうしようもないほどの、自分の都合で。 「ふん、早く行くぞ」 ぷい、と。 式は私に背を向けて、展示場へと一歩踏み出す。 こういう態度の式は、少し珍しいかもしれないと思った。 「まって」 その背を、呼び止めた。 私は一歩も動かないまま、さっきまでのように式の隣に並ぶこともなく。 黒い雪の降る道の真ん中で、私は式が振り返るのを待つ。 「今度はなんだ?」 「これ」 「…………」 その時、式が浮かべた表情こそ、実は珍しい物かもしれなかった。 「もっていって」 私の、式へと突き出した両の手。 そこに握られていたもの。 長い、重い、大きな刀。 「これが、最後の一本だから」 モモと私で分け合って所持していた刀の、ラスト一本。 私たちが所持していた刀剣の中でもおそらく最も長く大きく、そして異質な。 『七天七刀』と呼ばれるそれを、私は両手で掴んでいた。 これで本当に最後。 もう、式に渡す刀は無い。 持っている刀の全てを式に渡してしまうということ。 刀を授ける代わりに守護を求める、その最後の報酬をここで渡してしまうこと。 それは事実上の、契約の満了。 私たちが結んでいた約束の終わり―― 「いいのか?」 別れを、意味していた。 「ああ、もう十分。守ってもらったから……」 声に寂しさが滲まないように、気を使ったつもりだけど。 悟られたかどうかは分からない。 「そうか」 いずれにしても、式は短く答え、刀を受け取って。 とても呆気なく。私たちの契約は終わった。 「じゃあね」 「ああ」 何故だろう。 私たちの間に、悲壮感はなくて。 ただ静かに。あっさりと、穏やかな雰囲気のままで、それぞれ違う道に進んでいく。 もう幾度目かのシーン。 戦いの場へと進んでいく式を、私はもう一度だけ、見送る事にした。 式は振り返ることなく、黒き塔の正面入口へと向かっていく。 私は黒い雪が降る路上で、見つめ続ける。 彼女の揺れる黒髪。 良く似合っている着物姿。 凛々しき歩み。 最後まで、綺麗な後姿。かつて、大切なものを守るために欲しかった強さの全てがそこにあった。 私じゃ決してたどり着けないと今は悟っている、彼女の在り方。 きっと彼女は今でも否定するだろうし、絶対に認めないだろうけど。 それでも、彼女がなんと思おうと。 私にとっての式は、颯爽と現れて弱い私を助けてくれる『正義の味方』、だったのかもしれない。 だから――― 「ありがと、そしてさよなら。私のヒーロー……」 見えなくなった後姿に、私もまた、背を向ける。 黒い雪の降る路上、誰もいなくなった場所。 薄青だけが取り残された空のむこう、天の高みから降りてくる白へと。 たった一つだけ願う特別(せいはい)へと、かける普遍(ねがい)を歌に乗せ。 「―――――Listen」 夜が塗りつぶしてしまう前に、一歩を踏み出す。 私の行くべき、最後の戦いの場所へ。 【 TURN 5 『Listen!!』-END- 】 時系列順で読む Back [[1st / COLORS / TURN 4 『終物語』 Next [[1st / COLORS / TURN 6 『U&I』 投下順で読む Back 1st / COLORS / TURN 4 『終物語』 Next [[1st / COLORS / TURN 6 『U&I』 332 [[1st / COLORS / TURN 2 『ARIA』 両儀式 2nd / DAYBREAK S BELL(1) 秋山澪 2nd / DAYBREAK S BELL(5)
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60 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/27(木) 00 30 37 ID 1DsYKCDU 美穂エツァリ「…」 池田「どうしたんですか、キャプテン」 美穂エツァリ「うぅん、なんでもないわ、華菜」 ビリビリ「ねぇ、いつまであのかっこしてんの、あの子」 アーチャー「分からん。ただ、あの姿になってからのあいつはやけに生き生きとしているということは分かる」 【過去を捨てた男、エツァリ】
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326 :名無しさんなんだじぇ:2011/04/27(水) 01 00 08 ID OZwItEcE とーか 「ついに!ついについについについについに!咲第八巻発売決定ですわ!」 部長 「6/25かぁ。まだまだ先ね。でもこれで私とゆみの馴れ初めも見られるわけね」 とーか 「わたくしの入浴シーンと華麗な普段着も堪能できましてよ!」 かじゅ 「あぁ、あと嫉妬に狂ったモモの人魂化もだな。しかし五月は丸々休載、か。一か月半は流石に長いな」 美穂子 「…。でもどうして七巻発売から一年二カ月もかかったんですか?ストック的には去年の十月には貯まっていたはずですよね」 池田 (キャプテン、最近なんとなく怖いし・・・) カイジ 「まぁ色々と事情はあるんだろうさ。これとかな」ピラッ とーか 「ガンガン本誌で小林立&五十嵐あぐりの新連載開始?!」 部長 「ヤングガンガン六月増刊号で外伝掲載&巻頭カラー&表紙&本誌連動お風呂ポスター三種?」 かじゅ 「確か六月第三週掲載号はカラーになる予定だったような…」 池田 「例年通りだと最新刊の各店舗特典も描き下ろしだし!」 美穂子 「一か月以上空くとはいえ、対応しきれるのかしら…」 一同 「うーん…」 327 :名無しさんなんだじぇ:2011/05/04(水) 03 45 40 ID J91tpgz6 部長「そういえばゆみ。貴女、本誌読んでるのね」 かじゅ「あぁ、やはり久のその後は気になるからな…」 部長「悪かったわね、こんなところで死んでて」 かじゅ「済まないが、甘えるなら他を当たってくれ」 部長「ゆみに甘えていいのはモモちゃんだけだものね~」(ピラッ かじゅ「なっ―――?!それは本誌付録のモモのクリアしおりッッ!」 部長「説明的な台詞ドーモ。やっぱり好きな子の付録が付いてたら買っちゃうわよねぇ?」 かじゅ「か、返せっ!久!」 部長「ほーれほれほれ~」 池田「まんまと遊ばれてるし」 とーか「でもおかしいですわね?加治木ゆみがアレを懐から手放すはずはないはず」 カイジ「あぁ竹井もあの号は買ってるからな。多分自分のをあぁやってひらひらしてんだろ」 とーか「まんまと釣られたわけですわね。 いつもならそんなことないでしょうに本当に東横桃子のこととなると冷静さを失いますわね」 美穂子「アレ?でも私たち、いつもは買ってませんよ、ヤングガンガン」 池田(それはキャプテンのクリアしおり目当てだったからに決まってるし!)
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パンドラを抱きし者 ◆5iKodMGu52 常識と思っている事柄に、何故?と聞かれて即座に答えられる人間は少ない。 「なんでそらはあおいの?」 「なんではなはうつくしいの?」 「なんで1+1は2なの?」 「なんでひとは、いきているの?」 平沢唯にとって、伊達政宗の質問はそういった類の事柄だった。 なんで、と言われても彼女には「知っているから」、としか答えられない。 あえて理由を言うならば、と平沢唯は恥ずかしそうに、夢の中で中野梓と会った次第を話した。 福路美穂子はそれをあっさり信じたが、伊達政宗はしかめ面をするのみだった。 ヴァンに至っては「死んだ人間は生き返らねぇ」と吐き捨てるほどだ。 結局、埒があかないと判断した伊達政宗は、 片倉小十郎の亡骸にシーツを掛けてやってくれと伝えると、 自らの足で闘技場へ向かった。 乗らないのか、とヴァンは伊達軍の馬に乗りながらのうのうと尋ねたが、 それじゃそっちの歩調が合わないだろう、と政宗は固辞して走り去った。 ◆ バーサーカーは僅かに得た魔力を元手に彷徨っていた。 途中なにやら放送が入ったようだが、彼にそれを理解することは出来無い。 マスターからの指示もなく、周辺に強者も闘争もない。 暴力を持って蹂躙すべき対象も遠く地平にまで見当たらぬし、 そもそも動くものすら見あたらない。 行動指針を全く奪われた状態と言って、差し支え無い。 だが、バーサーカーは休むことなく歩み続ける。 破壊することしか知らない狂戦士に、敵を求めて彷徨する以外に何ができると言うのか。 何故戦いを求めるのか、と問われれば、 語ることが出来るのならば、彼はこう答えるであろう。 戦士は闘ってこそ、その存在価値を認められる。 ならば闘争を求めて動き続けなければ、彼の存在する意味はないからだ。 瓦礫で覆われた、かつて工業地帯であったエリアを、踏み砕きながら彼は歩く。 ただ彼の日常、戦いを求めて。 ◆ 「馬より断然速いじゃねぇか」 あっという間に豆粒のようになった政宗の姿を見てヴァンは呟く。 「それじゃ、私達も行きましょう」 小十郎の痛々しい遺体に支給品の中から毛布を取り出して被せ、黙祷した後 福路美穂子は平沢唯を後ろに乗せて、そろそろと馬を橋に向かわせる。 単独戦力として完成されている政宗と違い、 福路美穂子もヴァンも多少腕に覚えがあるものの、 この島で戦い、生き残るには多少不安があったのだろう。 悪意のある目標に発見された場合、対処に苦しむ事になりかねない。 目立つ行動を避けるために、馬を全力で走らせることは出来無い。 走りたける馬蹄の音は、想像以上に遠くにまで響く。 ましてや全くの一般人である、平沢唯を連れての行動である。 先程伊達軍の馬が見せた超機動を発揮するわけにも行かない。 あれは改造人間であるヴァンにすら、少々手にあまる暴れ馬だった。 平沢唯を乗せて、あのスピードを出したら、あっという間に振り落とされてしまう。 落馬のダメージは深刻だ。命の危険すらある。 先程のあの凄まじいスピードから落馬した場合、受身すら取れずに五体バラバラになるだろう。 ここに居る男、ヴァンはあの超スピードから振り落とされたにも関わらず、ピンピンしているが。 道中、福路美穂子は自分に起こったこと全てを、平沢唯に伝えていた。 自分は既に死んでいること。 自分がおそらくは"左腕"に宿る悪魔によって復活したこと。 そして、自分の全てを掛けて、平沢唯を護ると決意していること。 第二回放送を聞いての考察を含めて、 いつ自分が活動を停止するか分からない以上、後事を託す意味で。 福路美穂子にとって意外だったのは平沢唯が、 目の前で死んだはずの自分の生存をすんなり受け入れ、 さらに異形の"左腕"に、なんら恐れも不信感も疑問も持たなかったこと。 「やっぱり唯ちゃんはすごいんですね」 福路美穂子はぽろぽろと涙を流しながら、そんな平沢唯をなんの疑問も持たず受け入れた。 ■ ヴァンにとって平沢唯という存在は「うざい」、の一言だった 馴れ馴れしく語りかける、妙な抑揚ととろいリズムで弾き出される言葉。 内容も実に脈絡もなく、取っ散らかっていて訳が分からない。そして実に嬉しそうに話し続ける。 アイスが食べたいだの、暑いだの、馬が可愛いだの、ダンってなに?だの。 (確かいま、殺し合いのゲームの最中だったよな?) 常にTPOをわきまえないヴァンをして、突っ込まざるをえない平沢唯の現状。 福路美穂子は既に慣れているのか、心の底から幸せそうに、にこやかにうんうんと まるで子供をあやす母親のように応対している。 付き合っていられないぜ、とばかりにテンガロンハットを目深に被ると、 ヴァンは平沢唯の話を、とりあえずはスルーすることに決めた。 ■ 「そう言えばわたしたち、結構近いところに居たのね」 「うん、もっと早くに出会えてたらよかったのにね~」 橋を越えて『神様に祈る場所』に向かう途中、未だ平沢唯と福路美穂子は語らっていた。 平沢唯はG-6展示場内に転送され、福路美穂子はその目と鼻の先、F-6にいた。 そして、どちらもヴァンが目指す宇宙開発局エリアだ。 福路美穂子は平沢唯との運命を、そんな些細なところにすら感じていた。 丁度三年前にたった一局、竹井―当時は上埜であったが―久と対局した、 あの時のような運命を、である。 上埜久の事を思うと既に鼓動を停止したはずの心臓が、胸が高鳴るような感覚に陥る。 これを、おそらくは憧れであろうと福路美穂子は思っていたが、 平沢唯のことを思うときも同じような感覚になることに、彼女は違和感を感じていた。 上埜久と平沢唯。 どう考えても似ない両者。なにか共通点があっただろうか。 もしかしたら、それが平沢唯を独占しようとした、先程の暴走につながったのかも知れない。 果たして、と福路美穂子が思考を巡らせていたところで、ヴァンが尋ねてきた。 「お前ら、そこでなんか見なかったか?ヨロイとか」 福路美穂子は展示場内に転送され、F-5駅をひたすら目指して歩いた。 精神的にもギリギリだった彼女に、周りの風景など眼に入るはずも無い。 平沢唯は、といえば展示場内で目に入った全てを語り始め、またもやヴァンをうんざりさせた。 ロケットだの、ひこーきだの、でっかい筒だの、本当に脈絡も無い、要領を得ない話。 果ては悪の秘密基地があった、だの荒唐無稽なことまで言い出した。 (こいつにホイホイ見つかるような秘密基地なんて、あるはずねぇだろ…) ヴァンは少しでも期待した自分が悪かった、と馬の背にだらりと身を任せる。 ただ、福路美穂子はその会話に違和感を感じていた。 「唯ちゃん、展示場には行ってなかったんじゃないの?」 ☆ 福路美穂子はそれまで平沢唯が辿った軌跡について、詳細に聞いている。 その道程に、展示場に立ち寄ったなどと言う事実は無かった。 「え?でもわたし見たよ?ロケットとか。あ、地下におっきい船があってね」 話があっちこっちに行って、またもやワケが分からなくなる。 福路美穂子は平沢唯の中で起きたことに、必死で思考をめぐらす。 行ったことがない場所について、何故平沢唯はコレほどまで詳細に知っているのか。 一方、ヴァンは既に平沢唯の話には興味を失ったようにそっぽを向き、 これから向かうギャンブル船について、おそらくは考えていた。 正確に言うと、そこで景品としてさらし者にされている、ダンについてだろう。 無論、確定情報ではない。 ヴァンの愛機、いやそれ以上の存在であるダン・オブ・サーズデイは、 こちらの情報によれば、いまだギャンブル船の景品リストには無い。 これから追加されるやもしれないが、だが、ヴァンはそのことを知らない。 エレナの形見であり、己の半身であり、命そのものであるダン。 常はサテライトベースにあり、呼ばれればすぐさま駆けつける憎い奴。 その自由を奪われ、事もあろうに売り物にされている、という福路美穂子の冗談交じりの推測は、 ヴァンの復讐者としての血を騒がせるのに十分だった。 エレナ、カギ爪の男、そしてダン。 次々と自分の中の中心を奪われ続けるこの男に、心の平穏は訪れるのか。 それはいまだ闇の中だ。 自分の中の中心を奪われ続けいると言えば、福路美穂子も同様。 池田華菜、竹井久、片倉小十郎、そして彼女はいまだ知らぬがトレーズ・クシュリナーダも。 このゲームにより全てを奪われたといっても差し支えない状況。 だが、ヴァンに比べるとまだマシなのかもしれない。 今は平沢唯が傍らに居るから、だ。 おそらく自らの復活に関与しているであろう平沢唯は、今や福路美穂子の全てだ。 今は船井の提案に従ってエスポワール号を目指してはいるが、 なるべくならば平沢唯の意向通りにしてあげたい。 そう願っていたと思われる。 平沢唯もまた大切な仲間である田井中律、琴吹紬、中野梓を失った。 また、琴吹紬、秋山澪に至っては自らを殺そうとまでしている。 普通の人間ならば人間不信と狂気に襲われていても不思議ではない。 実際、福路美穂子は精神の平衡を失い、ヴァンは復讐のみに心を囚われた。 だが、平沢唯は何故か平然としていた。ただひとつの心残り以外は日常然としていた。 平沢唯自身が言うには、死んだ三人に慰められたから、だそうだが。 そして気絶し、外界からの情報を遮断されていたはずの彼女が、 何故あの事を知っているのか。 さて。 ☆ そろそろ着く頃だと三人がきょろきょろと辺りを見回していると、平沢唯が教会の姿を認めた。 「あ、教会が見えた。あれが"神様に祈る場所"だよ、みほみほ」 途中何度も後ろから固く抱きしめられて、赤面しっぱなしの福路美穂子は、 平沢唯の言葉に、はっと我を取り戻した。 「そうね、きっとあれがそうだわ。…?」 平沢唯の言い回しに若干の違和感を感じつつ、福路美穂子は教会に向けて進路を取った。 その時。 三人の耳に程遠くから流れるライブ音が響いた。 ■ 三人は馬の歩みを止め、 福路美穂子はキョロキョロと辺りを見回し、 ヴァンはテンガロンハットを深く被り直し、 平沢唯はある一点を見つめる。 目を閉ざし、耳を澄まし、音源に集中する。 平沢唯はやがてポツリと「澪ちゃん…」と呟く。 「え、澪って秋山澪なの、唯ちゃん?」 黒髪ロングのスゴク綺麗な子で、スタイルもよくて気っ風が良くて人気者で、 左利きで専用ベースが滅多に売ってなくて文句を言って、 怖がりで恥ずかしがり屋で強情っ張りで真っ直ぐで、 ベースが凄く上手くて歌がとてもキレイで。 音楽がとても好きで、部のみんなをとても好きな、田井中律の無二の親友。 それが平沢唯の語る、秋山澪。 平沢唯の向く方向と地図とコンパスを見合わせる。 「そっちの方角って…闘技場?まさか、まだそこに明智光秀がいるというの?!」 福路美穂子は平沢唯を連れて逃走する際、秋山澪を闘技場控え室に残していった。 それが心残りで、伊達政宗に秋山澪をお願いしますとは言った。 だが伊達政宗の憶測では、 平沢唯・福路美穂子の両名が闘技場から脱出してから既に二時間以上経っている為、 明智光秀・秋山澪の二人が闘技場に残っている可能性は低いはずではなかったのか。 ■ 「伊達政宗、だったか。遂にぶつかっちまったって事だな」 その声に福路美穂子はヴァンの方を振り向く。 「知っていたんですか?!」 「知ってて送り出したんじゃなかったのかよ?!」 エ…、と福路美穂子が一瞬固まったのを見て、めんどくせぇな、と溜息をついてヴァンは続ける。 「あいつがこれからピクニック行くような様子に見えたか? あからさまに腹決めた男の顔だっただろうが。 それにアッチの方から絶えず漂ってくる、隠そうともしないアブねェ気配。 あいつは口じゃああは言っていたが、お前らに『来るな』って訴えていただろ」 短慮を責められたことで冷静さを失っていたのか、 福路美穂子は常なら察していたであろう伊達政宗の機微を、見失っていた。 付いてくるな、という意思表示は、ヴァンが来る前に既に為されていた。 そして福路美穂子が闘技場へ単独で攻め込むという案に対して、 それを辞めさせる為に、わざわざ嘘をついたというわけだ。 「伊達さんは、わたしを完全に足手まといとしてしか認識してなかった、ということですね」 "左腕"を得ても、結局は片倉小十郎を見殺しにせざるを得なかったあの時と、全く変わらない。 そう福路美穂子が自嘲すると、ヴァンはその背中で耳を澄ます平沢唯を向いて言う。 「守る者がすぐ傍にいるって言う奴を、連れて行きたくなかったんだろ。 お前の補助に、わざわざ俺をお目付け役だかなんだかに付けてまでな」 ヴァンが二人について来たのは、エスポワールに向かうためも勿論あるが、 伊達政宗の意図を汲んだ為でもある。 でなければ、さっさと一人で船に向かっていただろう。 伊達政宗ほどではないが、彼もまた一人で完結した戦士だ。 単独行動はむしろお手の物だろう。 問題は方向感覚が極端にないと言う点だが、 これは彼自身が自覚してないことなので、ここでは関係ない。 だとするならば、伊達政宗の意志を汲んでこのままエスポワールを目指すべきなのか。 福路美穂子がそう決断しかけたとき、それまで一心不乱に耳を澄ましていた平沢唯が口を開いた。 「闘技場に行こう!ヴァンさん、みほみほ!」 ◆ かつて手にした斧を拾い上げたバーサーカーは同時に遂に闘争の芳香を嗅ぎつけた。 二箇所。 左か右か。 どちらも自分の相手としては申し分ないほどの強さを秘めた人間たち。 だがバーサーカーは左を選んだ。 理由は明白。 より近いから、である。 戦いを求めて彷徨し続けた狂戦士は、喜びの咆哮も僅かに、北へ、北へと歩を進める。 嗅ぎつけた獲物を逃さぬよう、音を殺してそろりそろりと。 ◇ 白髪の人が、澪ちゃんがりっちゃんを殺したって言って、 わたしは信じられなくて澪ちゃんに聞いて。 頭がこんがらがって、気がついたらわたしは倒れて意識を失っていた。 あぁこのまま死んじゃうのかなぁって思った。 だって意識を失っているわたしに、澪ちゃんが変な銃を向けているんだもん。 ちっちゃい針がわたしに向かって飛んできたけど、身体が動かない。 なんで?なんでムギちゃんも澪ちゃんも、わたしを殺そうとするの? もうその後は光で全部見えなくなっていた。 ■ 気が付くとわたしは緑色の光で満ちた、なんかパルテノン神殿みたいな場所に居た。 そこには14人と11人が集まっていて。 わたしを見つけると、みんな驚いた顔をして、寄ってきた。 その中にはあずにゃんもりっちゃんもムギちゃんも居た。 あ、それと船井さんも。 あれ、そうか。わたしあのまま死んじゃったんだ。 そう思っていたら、ムギちゃんが 「違うよ、福路さんが助けてくれたから、唯ちゃんは生きてるよ」 って言ってくれた。 「澪がわたし達を殺すはずないだろ」 りっちゃんが言う。いつも通りの頼りになる笑顔で。 「そっか。じゃあみんな死んで無かったんだね!」 っていうとりっちゃんもムギちゃんもあずにゃんも、他のみんなも下を向いちゃった。 あれ? ■ りっちゃんが説明したところによると、みんなが死んでいるのは確かなことなんだって。 じゃあなんでわたしはここにいるのって聞くと、りっちゃんも分からないみたい。 ムギちゃんが、殺そうとしてゴメンねって、 澪ちゃんもわたしを殺そうとしていたけど許してあげてね、って言ってる。 そんな、言われなくてもわたしたち友達だもん。 なにかの間違いだって分かってるよって言うと、ムギちゃんも、りっちゃんも、あずにゃんも泣いちゃった。 泣いてるけど、みんな笑ってるから、んー、大丈夫かな? そしたらみんなが、けいおん部のみんなだけじゃなくて、みんながわたしに話しかけてきた。 みんな一斉に話すもんだから聞きとるのが大変だったけど、 わたしも一生懸命全部聞き取ったよ。 聞いた内容を地図に書き込んだら、地図が真っ黒になっちゃった。 その黒がわたしを取り込んで行く。黒いのになんか妙に明るい。 あれ、もう帰る時なんだ。みんなが悲しそうな顔をしている。 あずにゃんが「伊達さんにありがとうって言っておいて下さい」って言ってる。 「綺麗な宝石と着物をありがとうって伝えて下さい」って言ってる。 わたしは片手を上げて「大丈夫だよ、伝えるよ」って言うとあずにゃんはとっても嬉しそうだった。 わたしも嬉しかった。 ■ 目が覚めて、伊達さんにあずにゃんの伝言を伝えると伊達さんはビックリした顔をしていた。 あれ?なんでわたしこの人が伊達さんだって知ってるんだろ。 あぁそうだ、みんなから聞いたんだっけ。 あ、みほみほだ。左腕がお猿さんになってる。みんなから聞いた通りだ。 わたしを助けるために、死んでたのに生き返ったんだよね。ありがとう、みほみほ。 そうだ、りっちゃんが、 「唯はワガママ言ったら駄目だぞ。そこにいる人達はみんな、唯のために頑張ってるんだからな」 って言ってたから、みんなが心配しそうなことは言わないでおこう。 みんなから一杯聞いて一杯知ったけど、わたしじゃそれをどうしたらいいか分からないし、 そもそもそれがどういう意味を持つのか分からない。 全部みほみほやヴァンさんに伝えた方がいいのかも知れないけど、 さっき伊達さんに、あずにゃんからの伝言をなんで知っているのかって言われたときに説明したら、 みんなちんぷんかんぷんだって顔してたし、どう伝えたらいいのか分からない。 ● それに覚えた事だって、ずっと覚えているわけじゃないみたいだ。 それが分かったのは教会に着く、ちょっと前。 森の中の小さい小屋を見た時だった。 そしたらなんか、見えないものが見えた。 わたしと同じくらいの身長で、可愛くて優しそうで可愛い子。 あれは忘れもしない。 ういだ! ういー、って言って手を振ろうとしたけど、 あれが幻だってことは、さっきみんなに教えて貰ったんだった。 良く分からないけど、ちょっとした拍子で記憶が表に出てくるんだって。 写真を見たときに、その時のことを思い出す感じみたい。 小屋の中にわたしと同い年くらいの女の子と一緒に入って、 その子はういを後ろから鉄砲でバン!って撃った。 でもういは死ななくて。 駄目だよ、うい。 そんな事しないで。 ういは優しくて可愛くて、胸がわたしより大きくて、気が利いて、 ちょっと練習しただけでギター覚えちゃう凄い子なのに、 殺されそうになったから、ちょっと気が立っただけでしょ? そんな黒いナイフなんて持たないで。 怖い顔しないで。 平沢憂はナイフで池田華菜の腹部を刺し、殺した。 その子は口から血を吐き出しながら、ういを恨めしそうに見つめる。 その子の走馬灯が見える。全部みほみほとの思い出だ。 ● ごめんなさい、みほみほ。 ういが、わたしの妹があなたの大事な人を殺しました。 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。 わたしはぎゅっ、と前にいるみほみほの身体を抱きしめた。 みほみほに謝らなくちゃ。 でもどうやってこんな事伝えればいいんだろう。 わからないよ。 みんなにどうしたらいいのか教えて欲しかったけど、それももう駄目みたいで。 わたしはみほみほの背中に顔を押し付けて、ごめんなさいって言うしか出来なかった。 みほみほはわたしをすっごく心配して、すっごく無理をしているというのに、 わたしはみほみほに心配だけ一杯させて、しかもういがみほみほの大切な人を殺しちゃって。 どうしよう。どうしたらいいんだろう。どうすればよかったんだろう。 どうしたらいいの、みんな。 そう思って辺りを見回す。 すると、教会が見えた。 わたしは気を取り直して、教会を指さし、あそこが神様に祈る場所だよって教える。 そうするとまた幻が見える。 ● 教会にはりっちゃんがいて、他にも二人、男の人と、綺麗な人がいて。 そこに澪ちゃんと白髪の人が入ってきた。 白髪の人はふらふら歩くと、あっさりと綺麗な人と男の人を殺して。 りっちゃんは一杯抵抗していたけど足を斬られて。 首を斬られた。 ● もうイヤだ。 我慢するのはもうイヤだ。 なにも知らないのに、みんなが死ぬのが、もう我慢出来ない。 みんなに迷惑を一杯かけちゃうかも知れない。 でももうこんなのは我慢出来ない。我慢出来ないよ、りっちゃん。 ■ そんな時、遠くから歌声が聞こえてきた。 もう、一声聞いただけで分かる。 綺麗な長音と発音と、凄くうまいベースと相まってすごくうまい。 こんなの聞き間違いようがない。 澪ちゃんだ。 澪ちゃんが凄く悲しい気持ちで歌っている。弾いている。 もうどうにも止まれなかった。 澪ちゃんを助けたい。 そこにいるって分かっているのに、我慢するなんて出来るはずがない。 だからわたしはこう言うんだ。 「闘技場に行こう!ヴァンさん、みほみほ!」 ◇ 平沢唯の真剣なまなざしと口調に、福路美穂子はあっさりと翻意した。 元々平沢唯の意志を尊重すると決めていた彼女にとって、 この真っ直ぐな意志は非常に喜ばしいものだった。 まるで初めて立ち上がった我が子を見るような眩しい目つきで、 福路美穂子は平沢唯に微笑みかけながら「行きましょう!」と息巻いた。 「俺は反対だ」 ヴァンはそう告げた。 「それじゃあいつの意志を無にしちまうだろ。 俺はその為にお前らにわざわざついて来てんだ。 だから、そっちに行くってなら、俺は外させてもらう」 福路美穂子も平沢唯も、それは覚悟の上だった。 平沢唯に至っては一人でも闘技場に行く腹積もりだった。 だからヴァンを引き止めることはしなかった。 「じゃあお別れですね」「ヴァンさんバイバイ」 そう言って二人は西、つまり橋に向かう。 ヴァンも背中を向けて立ち去るつもりだった。 でも少しは引き止めてもらうつもりだった。 (おいおい、お目付け役だぜ、俺。 その俺が別れるって言ってるんだから、もう少しは引き止めてくれたっていいだろ? なんであっさりバイバイとか言ってるんだよ、お前ら!) ヴァンは、なんかイライラしてきていた。 (そもそも南っていうやつは俺が最初に行きたかった方向じゃなかったのか?! なんで俺はわざわざあいつらと別れてまで北って奴に行こうとしてんだよ?! ああああああああああああああああああああああ!!チックショオオオオオオオオ!!) 「おい、お前ら!さっさと南行くぞ、南!」 そういうとヴァンは180度回頭して、真っ直ぐ南を目指す。 控えめに言って疾風のように。見た目ズッパリ言えば単なる暴走。 「ヴぁ、ヴァンさん?!そっちは危険だって、さっき言ったばかりです!」 真っ直ぐ南に向かえば、そこは政庁。 第二回放送を聞いた福路美穂子が、まず近づいては危ないと判断した、 立ち入り禁止エリアと河で挟まれた危険地帯。 それ故、福路美穂子は来た道を引き返して橋を渡り、それから南下するつもりだった。 それが一人のバカの暴走で、おジャンである。 福路美穂子は仕方なく南に進路を取り、何とかヴァンに追いついた。 もう隠密しながらの移動もなにも無くなった。 ドドドドドドと馬蹄の音が辺りを震わせる。 「なんで真っ直ぐ南に行ってるんですか?!」 「だって俺が行きたかった宇宙開発局への通り道だろうが! それにギャンブル船を通る通り道だろうが、こっちは!」 福路美穂子はなんの冗談だろうと首をかしげ、あるバカバカしい仮定に行き着いた。 「まさか地図の下と上がつながってるとか思ったんですか?」 「あぁ?!違うのか?」 「あ、わたし知ってるよ!TRPGの地図とかそういう風になってるよね!」 そんな感じで二つの騎影と三人は一路南を目指す。 その先でなにが待ち受けるているのか、まだ三人は知らない。 【D-5西部川沿い/一日目/午後】 【福路美穂子@咲-Saki-】 [状態]:前向きな狂気、恐怖心の欠如、健康だが心音停止 [服装]:血まみれの黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない [装備]:レイニーデビル(左腕)、大包平@現実 [道具]:支給品一式、童子切安綱@現実、燭台切光忠@現実、中務正宗@現実、雷切@現実、和泉守兼定@現実 [思考] 基本:唯ちゃんを守る 0:闘技場を目指す 1:唯ちゃんの意志を尊重というか優先というか、それを大前提として行動する。 2:主催者を殺す。ゲームに乗った人間も殺す。 3:ひとまず魔法と主催の影を追う。この左腕についても調べたい 4:力を持たない者たちを無事に元の世界に返す方法を探す 5:対主催の同志を集める。その際、信頼できる人物に政宗から受け取った刀を渡す 6:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら? 7:張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える 8:トレーズと再会したら、その部下となる? ?:唯ちゃんを独占したい。 [備考] 登場時期は最終回の合宿の後。 ※ライダーの名前は知りません。 ※トレーズがゼロの仮面を持っている事は知っていますが ゼロの存在とその放送については知りません ※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています ※浅上藤乃の外見情報を得ました ※自分が死亡もしくはそれに準ずる状態だと認識しました ※織田信長の外見情報を得ました ※レイニーデビルを神聖なものではなく、異常なものだと認識しました。 【黒の騎士団の服@コードギアス】 黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム 超ミニスカ 【ヴァン@ガン×ソード】 [状態]:健康、ダンを奪われた怒り [服装]:黒のタキシード、テンガロンハット [装備]:ヴァンの蛮刀@ガン×ソード [道具]:基本支給品一式、調味料×大量、徳用弁当×6、1L入り紙パック牛乳×5、伊達軍の馬 [思考] 基本:ダンを取り戻す 0:宇宙開発局に行くついでで、こいつらと一緒に闘技場に行く。 1:その後また宇宙開発局を目指す。 2:その後ギャンブル船に行く。 3:機械に詳しい奴を探す 4:向かってくる相手は倒す 5:上条当麻を探して殴る 6:主催とやらは気にくわない [備考] ※26話「タキシードは明日に舞う」にてカギ爪の男を殺害し、皆と別れた後より参戦。 ※ヴァンは現時点では出会った女性の名前を誰一人として覚えていません。 ※死者が蘇生している可能性があることを確認しましたが、結論は保留にしました。 ※エスポワール号が闘技場と宇宙開発局の延長線上にあると思い込んでいます。 ☆ 積み重なる膨大なる資料と映像に埋もれながら、私は美麗なる顎をつかみながら思案する。 「平沢唯。やはり繋がっていたか」 アカシックレコード。 過去から未来に到るまでの全てを収めた記憶装置。 この世の全てを手にいれることが出来ると言われる存在。 遥かに矮小ではあるが、平沢唯はそれを手に入れた。 記憶装置に封じられた対象はおそらく、この島に存在する全参加者。 もっと言ってしまえばダミーでない首輪を身につけた、この島にいる全参加者といえばいいのか。 平沢唯の会話を分析した結果、死者に関する情報に関しては ひときわ色濃く彼女自身の中に封じ込められていると見られる。 一時はトランザムバーストなる現象により、 周囲の人間全ての深層心理に到るまで把握したのかと思った。 だが、どうやらそれだけに留まらない彼女の知識範囲に、 私は第二回放送直後からずっと、彼女と、その周辺に起きた出来事に取り掛かっていた。 そして導き出された答え。 それが《アーカーシャの剣》、アカシックレコードである。 「まさか神根島に、このようなオカルティズムの極致が隠されていたとは… いやはや、やはりどんな秀逸なフィクションも、現実には勝てないな」 膨大なる記憶媒体が積まれた資料室。 ここには呼び出された参加者の、全ての世界のすべての資料が山と積まれている。 それらの資料をひっくり返して得られた結論が、まさか自分の世界由来の装置とは思わなかった。 ヒトの脳は、想像もつかない事柄を、持ち主に理解させやすい形に変えて伝達させる。 卑小な例だが、ガンダムを見たものがそれを「KMFのようなものか」と判断する、そのようなものだ。 平沢唯は眠りの最中、トランザムバーストにより作動した思考エレベータに接続し、 生も死も関係なく、この島の参加者の思考に干渉することによって膨大な情報を手に入れた。 それを彼女の脳は、死者との対話という形で彼女に理解させたわけだ。 「もしくは本当に、死者達を閉じ込めた空間があるのかも知れないな」 戯れ言だな。私は自分で言ったおとぎ話を、鼻で笑って否定した。 死んだ人間が、何かを語ることなどあろうはずがない。 Cの世界?そんなものはまやかしだ。ラグナレクの接続?狂人の考えだ。 我が皇帝陛下も立派に人の子。子供騙しじみた妄想に振り回された哀れな道化に過ぎなかった。 それにしても疑問なのは、アカシックレコードにこの島の記憶しかなかったことだ。 それがアカシックレコードであるのならば、この世界のすべての記憶が存在して然るべきだ。 ならばこの世界は、このゲームのために生み出されたのだとでも言うのだろうか。 部屋に山と積まれた資料群を見る。ゲームが始まって以降の記録が、ここには残されている。 おそらくはゲームが終了するまでここに蓄積されて行く記録。 つまり創世と黙示の物語がここに綴られるわけだ。 ―まるで一個の魔道書だな。 そう想いを馳せて、平沢唯も一つの魔道書と化したのではないかと想像した。 インデックスという少女は103000冊の魔道書を内封しているらしい。 ならば魔道書一冊をその身に刻まれた少女が居たところで、別におかしい話ではあるまい。 「もうしばらく調べる必要がありそうだな」 さて、この調査結果をどうするべきか。しばらく考えて、これは私の胸の内に秘めておくことにした。 どうせ平沢唯では、この膨大なる記憶情報をどうにか出来るわけもあるまい。 全てを知りながら、それを活用する術を知らない。 いわば『全知無能』、それが彼女だ。エピメテウスと言ってもいいかも知れないな。 もし神のごとき知略の持ち主が平沢唯を手に入れたら…まぁ考えたところで仕方ないだろう。 なにしろ、暴虐の嵐そのものが彼女に迫っているのだから。 全ては無為なのだ。私ディートハルト・リートの為すことも含めて全て。 ☆ 【平沢唯@けいおん!】 [状態]:健康 [服装]:桜が丘高校女子制服(夏服) [装備]: [道具]:武田軍の馬@戦国BASARA [思考] 基本:みんなでこの殺し合いから生還! 0:澪ちゃん待ってて。今行くから! 1:誰かが知らない所で死んだりするのは、もう我慢出来ないよ! 2:憂、なんであんなことしたの…? 3:みんなから聞いた話、だれかに伝えられたらいいなぁ…… 4:魔法かあ……アイスとかいっぱい出せたらいいよね…… [備考] ※東横桃子には気付いていません。 ※ルルーシュとの会話の内容や思考は後の書き手さんにお任せ ※浅上藤乃と眼帯の女(ライダー)の外見情報を得ました ※第二回放送までに命を落とした参加者(死亡前に消滅したアーニャを除く)の記憶を得ました。 ※第二回放送までに島で起きたほぼ全ての事象を、知識として得ました。 ※上記二つに関しては知識としてのみ蓄積されている為、都合よく思い出せない可能性があります ◆ そろりそろりと近づくバーサーカーの耳に歌が聞こえる。 これは戦賦(いくさうた)。 古代において英雄の戦いを綴った、吟遊詩人たちの歌。 誇り高き戦士たちを鼓舞する、戦いの歌。 はるか古代の栄光を、凱旋する自らを讃える戦賦。 硝煙と爆音。 憎悪と闘争心。 戦賦と栄光。 それらすべての坩堝たる円形闘技場。 ここが次の戦場か。 吟遊詩人に戦賦をもって迎え入れられる光栄を、 狂気に縛られたこの身が受けられるとは。 目前に迫った戦いと光栄にバーサーカーは身を震わせ、 またそろそろと誇りと興奮をもって歩を進める。 決戦の時は、近い。 【E-4北部/一日目/午後】 【バーサーカー@Fate/stay night】 [状態]:魔力消費(中)、狂化 [服装]:全裸 [装備]:長曾我部元親の碇槍@戦国BASARA、武田信玄の軍配斧@戦国BASARA [道具]:無し [思考] 基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。 0:闘技場に向かう 1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、その力を示す。 2:キャスターを捜索し、陣地を整えられる前に撃滅する。 [備考] ※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3は使い切りました。以降は蘇生不可能です。 ・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。 現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works おもちゃの兵隊、ドラグノフ、大質量の物体、一定以下の威力の刃物、GN粒子を用いた攻撃、輻射波動、ゲフィオンディスターバー ※狂化について 非戦闘時に限り、ある程度の思考能力を有します。 時系列順で読む Back 言葉という無限の刃(後編) Next のどかデジタル 投下順で読む Back 言葉という無限の刃(後編) Next のどかデジタル 181 贈る言葉 平沢唯 208 六爪流(前編) 181 贈る言葉 福路美穂子 208 六爪流(前編) 181 贈る言葉 ヴァン 208 六爪流(前編) 181 贈る言葉 伊達軍の馬 208 六爪流(前編) 162 新たなる旅立ち バーサーカー 208 六爪流(前編) 153 切り札(後編) ディートハルト・リート 228 主催にさえなれば俺だってラスボスになりますよ猿渡さん!
https://w.atwiki.jp/animerowa-3rd/pages/660.html
贈る言葉 ◆LJ21nQDqcs わたし、福路美穂子は木陰で、未だ寝ている唯ちゃんを涼ませていた。 燦々と降り注ぐ陽の光は容赦なく大地を照らし、照り返しで地面そのものが眩しいくらいだ。 膝枕されている唯ちゃんは、時々誰かの名前を呟いているようだが、嬉しそうに微笑んでいる。 夢のなかでお友達と会ってるのだろう。 私は唯ちゃんの髪を撫でながらも、自分の中に嫉妬があることを否定出来なかった。 伊達さんは、片倉さんを前に胡座を組んでいる。 掛ける言葉も、何かしてあげることも、私には出来なかった。 逃れようの無い罪、そのものを目の前に突きつけられて、動揺していたと言うのもある。 だから放送まで一人にさせてくれ、という伊達さんの言葉は私にとっても有り難かった。 伊達さんの気持ちを置いて、唯ちゃんにかまっている私は、やはり酷い人間だと思う。 冷たく厳然とした死という現実から逃れて、 暖かい、生命そのものとも言える唯ちゃんに逃避していた。 逆に言えば唯ちゃんが居なければ、わたしはどうしようもなく泣き崩れていたかもしれない。 わたしは、少なくとも泣いて時間を浪費するよりは、唯ちゃんを気遣っている方が前向きであり、 ややマシな時間の使い方だ、と自分を騙していた。 ヴァンさんは、といえば腰を曲げながら、何をするでもなく帽子を胸に立ち尽くしていた。 わたしや、おそらく伊達さんからしてみれば重大事ではあるが、 傍から見ればやり過ごすべき茶番なのだろう。 ある意味、この場で誰よりも放送を心待ちにしているのかも知れない。 それにしても、 『ヴァン』 船井さんが注意するべきと言っていた14人の内の一人。 ヴァンさんで三人目ではあるが、その三人全てがやはり超人的な身体能力の持ち主だった。 恐ろしい明智光秀、瞬烈なる二連撃を見せた伊達さん、落馬しつつも怪我一つないヴァンさん。 ことに伊達さんの懐の広さは驚嘆に値する。 どう見ても異形のわたしをあっさりと受け入れ、超人であるヴァンさんもすんなりと引き込んだ。 それはわたし達がどんなタイミングで翻意したとしても、 十分に対処出来るという自信の裏返しとも言える。 突き抜けた強さとはそういう事なのだろう。 片倉さんを殺しながら、わたしを捨て置いた、あの眼帯の女もそう。 絶対的な力の差があるからこそ、わたしは見逃されたのだ。 いつでも殺せるから、と判断して。 明智光秀にしてもそうだろう。 闘技場から逃げるわたし達を追うことは、いくらでも出来たはずだ。 神様から貰い受けた"左腕"をもってしても、それだけのアドヴァンテージが、彼にはあった。 二人とも、いずれ遭遇した時、また見逃してくれるとは思えない。 生死は彼女と彼の胸先三寸であり、わたしなどはその荒波の中でさまよう一葉に過ぎない。 力が欲しい。 やはり、そう思わずには居られない。 力があれば、伊達さんのように泰然自若としていられるというのに。 こんな風に心を乱すこともなくなるだろうに。 華菜を、上埜さんを、片倉さんを失わずに済んだというのに。 そしてわたしが渇望し、唯ちゃんが熟睡し、伊達さんが胡座をかき、ヴァンさんが立ち尽くす中、 第二回定時放送が始まった。 ■ 出だしは前回同様、機械的すぎる少女の声から始まった。 ここまで感情を殺すことが出来るのだろうか。 最初の、あの龍門渕の部長さんが殺された放送の時、 遠藤という人は【人質】【ゲスト】などと言っていた。 インデックスと名乗る、この少女のことを【ゲスト】と読んでいたが、 この感情をなくした様子を見るに、わたしから見たらどう考えても【人質】に他なら無い。 拘束するのに面倒が無いよう、従順にするために感情を消したのかも知れない。 そう言えば船井さんは、闘技場の控え室でどうやらわたし達に薬を盛る予定だったようだ。 あの時、琴吹紬が事を起こさなかったら、もしかしたらわたしや唯ちゃんも、 あのように感情を殺され、船井さんにいいように使われていたのかも知れない。 わたしはどうでもいいが、唯ちゃんが利用されるのは我慢がならない。 やはり船井さんは殺されて当然だった。同情する余地は全く無い。 思考をたぐらせていると、進入禁止エリアが読み上げられる。 【A-2】【C-7】【D-6】 地図に書き込む。今回は前回と違い、施設は禁止エリアに入っていない。 ただD-6はホームがあり、これから列車を利用する際に不便が出るだろうことは予想出来る。 それにしても列車は復旧するのかしら?随分長いこと止まっているけど。 また、河を挟んだ向こう側、東側の真ん中を横切る形で禁止エリアが広がったので、 東側の南北に人が大移動するかも知れない。 D-5、E-5、E-6は回廊になった為、もしここで待ち伏せされた場合はかなり危険だろう。 この3エリアには近づかない方が無難と言える。 それにしても7×7の49エリアしかないのに、毎回の放送で3エリアも立入禁止になるとは。 たった二回の放送で禁止エリアは、かなり面倒な配置になった。 最終的には第16回放送、四日目の終わりには最後の1エリアで決着する形になる。 それまでに何としてでも、このくだらないゲームを止めなくては。主催者を殺さなくては。 そして死亡者が読み上げられて行く。 特に断りが無いので、おそらく第一回放送と同じく死亡順なのだろう。 船井さんと琴吹紬の名前が読み上げられた後に、三名の名前が続いた。 あの凶事から一時間も経っていない。 残り人数が激減しているというのに、死亡者数が変わらない。 つまり殺人ペースは確実に早くなっている。 均衡が崩れつつあるのだろう。 「注意するべき14人」も4人死んだ。 ここに居る伊達さんとヴァンさん、明智光秀を除けばあと7人。 超人14人が互いに殺し合っているのかも知れない。 B-3の城を崩した人も、その中に居るのかも。 あのようなパワーを叩きつけられたら、わたしなどは苦も無くこの世から消滅するだろう。 天江衣、東横桃子、阿良々木暦、張五飛、平沢憂、秋山澪 そしてあの人の名前は呼ばれなかった。 ホゥ、と一息つく。 唯ちゃんの妹である憂さんが無事なのは良かった。 田井中律、琴吹紬の二人を失い、秋山澪があのような状況にある以上、 憂さんの無事は唯ちゃんにとって一番の関心事に違いない。 わたしは自分の事以上にそれが嬉しい。 それにしても深堀さんが姿が見えなかったと言っていた、東横桃子はともかく、 肉体的には脆弱な子供のそれでしか無い、天江衣が生き残っていたことは意外だった。 わたしも唯ちゃんも秋山澪も、神様から貰ったこの"左腕"が無ければきっと死んでいた。 力の無いものがあっさりと死んでしまう。それがこのくだらないゲームだ。 ならば、天江衣はなにか強力な力を手にいれたのか、 それとも強力な庇護者を味方につけたのか。 あの悪夢のような場の支配を思い出す。 華菜を徹底的にいたぶったあの支配が、もし洗脳などに使えるのであれば。 投薬の必要もなく人を操れるのだとしたら、それは本当に悪魔のような力であろう。 そして、インデックスと名乗る少女は言葉を閉じ、マイクが切り替わる。 前回の放送と同じく、遠藤という男ががなりたてるのだろう。 あの不愉快な声は耳に障る。しかし放送には有為な情報も多い。 聞きそびれ無いようにしなくては。そして男の声が響きわたる。 ■ 『おおっと……! 待ってくれ、まだ終わりじゃないぞ……! こんにちは、諸君! 遠藤勇次だ……!』 ドクン 「え?」 脈打つはずの無い、わたしの身体に鼓動が響き渡る。 ドクン 違う、脈動は"左腕"。 そこから血が一斉に送り出されて 心臓が いや!やめて!わたしはそんな事望んでいない! ドクン 【 殺 す 】 "左腕"が一気に膨張する。振動する。鼓動する。 それにつれてわたしの身体も、黒い鼓動によって衝動が突き上げる。 そうだ。 主催者は殺さなくてはならない。 このゲームは殺さなくてはならない。 そう誓った。 そう願った。 それがわたしの望みだ! 「うああああああああああああああああああああああああああああ!!」 抵抗と歓喜と恐怖と殺意と諦観と興奮と絶望と。 全て渾然一体となったわたしの絶叫は、伊達さんやヴァンさんを振り向かせた。 ■ ヴァンさんや伊達さんが、どうしたんだと近寄ってくる。 駄目。 近づかないで。 わたしは今わたしじゃない。 だってこんなにも誰かを、今すぐ殺したくなっている。 何かの拍子で溢れ出した殺意が、周りの全てを蹂躙しようと奔走しようとしている。 どうやらその殺意の根源である"左腕"を必死に抑えるが、 そもそもわたしの身体が、わたし自身が殺意の塊となっている。 とても抑えきれるものではない。 そうか。 この"左腕"は神様からの贈り物なんかでは無かった。 それとは真逆の、あぁ、卑しいわたしにはむしろ相応しいではないか。 これは悪魔だ。 人を騙し、人を欺き、人心を惑わし、混乱をもたらす。 その為にわたしを生かしていただけだ。 滑稽な操り人形。 それがわたしだ。 このままでは唯ちゃんを守るどころか、重石にしかならない。 最悪わたしが唯ちゃんを殺すことになりかねない。 駄目だ。 それだけは駄目だ。 わたしが全てを失って、そしてようやく掴んだ希望を、 わたし自身が摘んでしまうだなんて、そんな馬鹿なことが、あっていいはずが無い。 まだ自由がなんとか効く右腕で傍らにある刀を鞘走らせる。 思考に雑音が混じる。 『殺ス』 駄目だ。殺すのは、殺されるのはわたし自身だ。 『殺ス殺ス殺ス』 違う。この殺人衝動をこそ殺す。 『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』 嫌だ、殺したくない! 『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』 今すぐ刀を首に押しあてなければ。 『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』 早く!早く! 『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』 ごめんね、唯ちゃん。わたしは馬鹿な人間でした。 あたなのように太陽のような、全てを照らす人と一緒に居られなくて当然な、 馬鹿な、滑稽な、人間でした。 だから 「殺ス!」 わたし自身を! ◇ だりぃ。 馬に騙されて、ダンにも会えずに、死体と一緒に旅をして。 そんで振り落とされて、地面を転がって、身体起こしたらしんみりした雰囲気。 弔いっていう神聖な時間は結構だ。 だが俺も急いでいる。 はええ所宇宙開発局やらに行って、ダンを取り戻さなきゃならねーんだ。 まぁこのなんとかいう旦那も、どうとかいう女も、悪い人間じゃなさそうだし、 俺を騙した馬にも天誅やったみたいだから、いちいち邪魔をする気はないが。 あ~、陽が照りつけてあちぃ。 しかし、一本しか無い木陰を占領するとか、この女もなかなかいい度胸してやがるな。 寝てる人間を陽に晒しちゃそりゃまずいがよ。 時々扇いで風送ったりして甲斐甲斐しいなぁ、おい。 気がつきゃあ、俺をほっぽり出した馬の野郎も起き上がってやがる。 まだ気が収まらねぇから、あとでしめておくか。 お、放送が始まった。 これが終わったら、そろそろお暇するか。 14人か、結構死んだな。 胡座かいて座ってる旦那がなんとなく反応したみてぇだが、俺には関係ない。 さて、行くかってな具合でディバッグを拾った、その時に異変は起こった。 「なんだぁ、こりゃ」 風が逆向きに吹いている。 つーか一点に向かって集まってきてやがる。 一点。 つまりあの女のところへ。 どういう理屈かを考えるのは苦手だ。 ただこれがやばい事態だってのは分かる。 どんどんと、あの女の左腕が異様なパワーを蓄えてるのが分かる。 「こりゃすげぇな。力とパワーとストレングス、三つ全てを兼ね備えようとしてやがる」 「それ全部同じですよね」 やかましい!と言おうと横を見ると、なんだ馬か。 「馬だけに馬いツッコミ。なるほど、いい感性をしてますね」 「ごちゃごちゃうるせェ!」 見ればあの女、殺る気満々の癖して、刀を自分の首に押し当ててやがる。 なんでこの島の女は、みんなめんどくせぇ奴ばっかなんだよ! ◇ あと一息で終止符を打てるという所で、わたしはヴァンさんの武器で右腕を拘束された。 絶妙な力の加減だろうか、右腕から刀がポロリと落ちる。 と、同時に背後から伊達さんがわたしを羽交い締めにする。 だが"左腕"はわたしの意志を既に無視して、悪あがきを続ける。 二人が何事かを叫んでいるようだが、"左腕"を抑えこもうと集中するわたしの耳には入らない。 ヴァンさんが今度は"左腕"を拘束しようと武器を飛ばす。 しかし"左腕"はヴァンさんを一本釣りし、投げ飛ばした。 わたしの意志は、既にわたしの身体の中に閉じ込められていた。 もはやわたしは自分で体を動かすことも出来ないのか。 これではもう、私は死んだも同然なのではないのか。 いや、それ以前に闘技場で毒を飲んだ時、わたしは死んでいた。 ならば今のわたしは残滓でしか無い。 あぁそうだ。わたしは既に死んでいたんだ。 伊達さん、もう手加減せずにわたしの首をへし折って下さい。 わたしは既に死んでいるんです。 これ以上、生きている人たちに迷惑を掛けたくない。 だから、唯ちゃんを誰にも渡したくないから、みんな死んで下さい。 そうだ、みんな死んでしまえば、唯ちゃんはわたしだけのものになる。 そうすれば、 ?! まさか。 まさか、わたし自身が望んでいたというの? 参加者全てが死ぬことを。 第一、唯ちゃんをわたしだけのものにしてどうしようというの? 分からない。もう、自分自身すら分からない。 もうイヤだ! 上埜さん、華菜、片倉さん、 わたしを助けて! こんなわけの分からない心のまま、死にたくない! ◇ チッ、なんてぇ力だ。 本気出したら対抗出来なくもねぇが、俺は引っ張られるままに空中に放り出された。 旦那が羽交い絞めにすることで、ほぼあの女の動きは止められているが、 それだけでどうやら手一杯のようだ。 人ひとりを傷つけずに拘束するのは、結構な力量差が必要だからな。 ましてや頑丈な野郎相手ならいいが、どうみてもあの女は体自体は普通の女だ。 旦那が遠慮して本気を出せないのも仕方のない話だろう。 こうなったら、この隙にあの女の意識自体を断ち切らねぇといけねぇか。 とりあえず、着地せんとっと思って足元を見ると、あのバカ馬が落下地点に居やがる。 いいタイミングだ。 人馬合体! 「気がきくな!ただの喋る馬じゃないな、お前」 「こういう無茶なことする人には慣れてますから」 「よし、んじゃいくぜぇ!」 無茶な機動と軌道で、無駄にものすごいスピードを出して突っ込む。 狙いは羽交い締めにされて、無防備に頭上を泳ぐあの女の左腕! どうやらあの異形は頑丈っぽいし、なんだか分からねぇが危ないっぽいからな! 「チェストおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 ものすごい速さと、俺の力によって、蛮刀は白銀の閃光となって炸裂する! ゴィンという間抜けな音とともに、女の左腕をぶっ叩く。 その衝撃か、女の動きは完全に停止したように見える。 ふぅ、と一息つく。どうやらこれでなんとかなるだろう。 と思って正面を向くと。 樹。 馬が急停止した反動で前方に放り出された俺は、そのまま樹に激突した。 このバカ馬、やっぱり許さねぇ! ◇ 「Shit!全く、揃いも揃って気を失いやがって」 俺は軽く肩をすくめて両手を上げる。 平沢唯、福路美穂子、ヴァン。 三人全員眠っちまってちゃ、俺が光秀の野郎を追えねえじゃねえか。 この福路美穂子って娘は少しはしっかりしていると思ったら、いきなり暴れ出しやがるし。 まったく神原駿河といい、福路美穂子といい、バテレンの娘はワケが分からねぇ。 しかも左腕に変な装飾でもするのが流行ってやがるのか? それにしては平沢唯の左腕には何も無いが。 まぁ幸い、誰も近づいてくる気配も無い。 途中までだが聞いた放送の内容を思い出す。 「真田幸村、本多忠勝、か」 二人ともどこまでも真っ直ぐな愚直なまでの武将だった。 あいつらだったら主催に対して真っ向からぶつかっていくだろう。 そして、生き急いじまったか。 ことに幸村とは再戦も果たしたかった。 しかし、感傷に浸る暇はない。 元々独りだろうが、主催の野郎を倒すと決めている。 (ならどうして、この三人を見守っておられるのです?) そりゃお前、害意を持っていない人間を、無駄に見殺しにする必要も無いからだろうが。 (あの福路美穂子は、明らかに害意を持っているように見えましたが) お前が守った女だからな。突然暴れだしたことについても本意じゃあるまい。 小十郎、お前も思ってもいないことを俺に聞いてくるな。 ン?小十郎? 俺は自分の言葉に驚いて振り向く。 そこにあるのは小十郎の遺体のみ。 Ha!俺もやけが回ったか。幻聴が聞こえるだなんてな。 (幻聴じゃありやせんぜ、政宗様) Okay。お前が言うんだったら、そうなんだろうな。 で、なんだ。死んですらも俺に小言を言いに来たのか。 (首輪のことです) あぁ、胸糞悪いこの首輪か。 放送じゃ辺離加(ペリカ)ってえ金に替えられるとか言ってたな。 (政宗様。この小十郎の最後の頼み、聞いてくれやしませんか) なんだ、埋葬してくれって言うのか?全くお前は足止めばかりさせるな。 そんなに光秀の野郎と戦わせたくないのかよ。 (いえ、僭越ながら、我が首級を上げていただきたいのです) ■ 「Ha!お前の首を切ろだと?!そんな小銭にたかる餓鬼みてえな真似を 後の天下人たる俺にやれって言うのか?!」 Shit!幻聴だけじゃなく、幻視まで見えてきやがった。 土下座する小十郎の姿が奴の遺体に重なって見えやがる。 やめろ、そんなことをしても、俺がお前の首を切るだなんて、出来るはずないだろうが。 (既に死んで役立たずとなったこの身に、未だ政宗様の役に立つ価値があるのならば、 喜んで差し出すのが小十郎の忠義にございます) 「馬鹿野郎!そんな事までしなくていいと、いつも言ってるだろうが! 主に向かって自分の首を切れ、だぁ?斬られたいならな、戦場で裏切り者として斬られろ!」 「バカとはなんだ、バカとは!」 背後で怒号が聞こえたんで振り向いてみたら、なんだヴァンの寝言か。 余程言われ続けてるんだろうなぁ。まぁあんな気絶の仕方してちゃ、言われても仕方ねぇが。 (では聞きますが政宗様。あんたは配下の者が首を斬られても知らん振りする、 そんな情けねぇ主なんですかい?) 小十郎のいつもの小言、そんな時に発せられるいつもの挑発。 あいつは死ぬまでこの調子で、俺に小言ばかり言って、俺を困らせていた。 「んだとテメェ!俺は奥州筆頭独眼竜伊達政宗だ! この胸くそ悪ぃ島から出たら、すぐにでも戦国の世を統一してみせる男だ! お前にゴタゴタ言われる筋合いはねぇ!斬らねぇものは斬らん!」 気宇壮大な夢を、それこそ俺の背となり脚となり支え続けた、小十郎。 そんな男の首を斬るなんざ出来るはずも無い。 (うるせぇぞ、藤次郎!あぁくだらねぇ!変なプライドばかりでかくて全体を見やしやがらねぇ! こんな情けねぇ男に一生を捧げたのかと思うと、自分の見る目のなさと不運に涙が出らぁ!) 「あぁ分かった!斬ってやる!この不忠のコンコンチキ野郎! 死んで主君から見放されるなんざ、とんだ忠臣だ、お前は!」 小十郎が言うことはいつも俺と、俺の夢のためだった。 俺のPrideを崩してまで、お前の首輪に、首を斬ることに価値があるってんなら、 「Good-Luck、小十郎。面と向かって別れを言えるとは思わなかったぜ」 六爪から一振り抜いて構える。 (おさらばでございます。政宗様) 辞めろ、そんな顔で見るな。 幼少の頃よりつるんできた、お前との思い出が蘇るじゃねぇか! 想起される思い出を振り払うかのように、俺は丹田に力を集めて愛刀を振り下ろす 「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 雷光が、大地を穿った。 ◇ 何分ほど気を失っていたのだろうか。 わたしは身体を起こすと辺りを見渡す。 まず最初に"左腕"を見る。 未だ異形の腕は私に生えたままだ。 その異形とわたしの上腕につながる一点に、あの人がつけた、あの人と過ごした証がある。 ちっちゃなちっちゃな、針の跡。 「存外、主張が激しいんですね、貴方」 くすりと笑って傍らを見る。 両隣で唯ちゃんとヴァンさんが寝息を立てているのを見ると、 どうやら酷い事にはならなかったのだと、胸をなでおろした。 しかし、最早わたしの存在は唯ちゃんの重石にしかならない。 唯ちゃん以外の存在を殺そうとする、あの衝動がまた何時襲ってくるか分からない。 何処か誰もいないところで、ひっそりと死のう。 唯ちゃんに気付かれないように。 「澪ちゃん」 唯ちゃんが寝言を呟く。 そうだ、どうせ死ぬなら、あの狂人から秋山澪を救い出して死のう。 それがせめてもの、唯ちゃんに出来る恩返し。 私に生きる希望と意味を一瞬でも与えてくれた、あなたに対しての。 伊達さんがわたしの方を振り向いて、あぁ起きたのかと声をかけて来る。 片手にはちょっと大きめの袋が。血が、滴っていた。 まさかと思い、飛び起きて片倉さんの遺体があった辺りを見る。 案の定、片倉さんは首を失って、指を組んで横たわっていた。 「まさか、片倉さんの首を切ったんですか?!」 分かりきったことを聞く。しかし聞かずにはいられない。 片倉さんが伊達さんを敬愛していたことを知っているからだ。 その忠誠に対して、この仕打ちはあまりではないか。 あぁ斬った、と伊達さんは応えた。 髪の毛が逆立つのを感じた。 片倉さんと過ごした六時間弱。 それは片倉さんにとっての最期の六時間でもある。 ほんの些細な時間ではあるが、それでもあの人のひととなりは十分すぎるほど伝わった。 誠実で真っ直ぐで、そして強くて。 こんなくだらないゲームで死んでいいはずの人でも、 ましてや、主君に首を斬られてぶら下げられるような人でも無い! 「なんでです?!片倉さんはあなたのことをずっと、ずっと支え続けていた人なのでしょう?!」 思わず食って掛かる。生殺与奪の権利は伊達さんが担っているというのに。 「あいつは俺の家臣だ。なら死んだあいつをどう扱おうと俺の勝手だ」 冷たく、伊達さんは言い放つ。 普段のわたしなら、その言葉の奥に潜む悲しみに気付けただろう。 いや、気づいていてもなお、言わずには居られない。 それが片倉さんに守られた、わたしの義務だ。 「だからって、そんな事して、片倉さんが喜ぶはずないです!」 「あいつが言ったんだよ、斬れってよ」 すかさず伊達さんが言う。 「Coolになれ、福路美穂子。お前は聞いてなかったかも知れないが、 首輪換金制度って奴が出た。他の誰かにこいつの首を渡すわけにもいかねぇ。 だったら俺が取っちまうのが、一番あいつのためになる。You See?」 遠藤なる男が話した瞬間、わたしの意識は混乱した。 だから遠藤の話を、私は全く耳にいれてない。 首輪換金制度。 確かにあいつらの考えそうな、ゲスな、最低なシステムだ。 片倉さんの首を他の誰にも奪われたくない、と言う気持ちも分かる。 わたしの怒りは憤りは急速にしぼんでいってしまった。 「I see」 そう呟くのが精一杯、だった 「Thank you、福路美穂子。その怒りはあいつの為だろう?主として礼を言っておくぜ」 あぁ、やはりこの人は大きい人だ。 わたしのような卑小なものの卑小な怒りすら簡単に抱き込んでしまう。 わたしは涙を流すしか無かった。 ■ 「それでどうするつもりだ、福路美穂子」 伊達さんが見た目落ち着いたわたしに聞いてきた。 わたしは先程の考えを打ち明けた。 我ながら捨鉢にも程があるとは思うが、唯ちゃんの負担になる自分を許せはしない。 だが 「そりゃ無理だろうな」 伊達さんはあっさりと言い放った。 伊達さんは整然とわたしの考えを崩していった。 ひとつ、光秀とわたしの実力差は明らかであり、 捨て身で行ったとしても秋山澪を救い出すなどと言う難事をこなせないだろうと言う事。 ひとつ、既に闘技場での凶事より二時間が経過しており、 光秀は既にその居場所を変えている可能性が高いこと。 ひとつ、一旦決めたことを勝手に変えるのは間違っていると言う事。 確かにそうだ。他人に言われると自分の浅慮が恥ずかしい。 ならばわたしはどうしたらいいのだろう。 「簡単だ。今まで通り、平沢唯を守ってギャンブル船に行けばいいだろう」 そうか。やはりそれしか無いのか。 自分の暴走が心配ではあるが、決めたことは最期まで貫き通さなければならないだろう。 「わかりました。伊達さんはどうなさるんです?」 「ちょっと待て。この島には光秀や信長、あの城をぶっ壊した奴まで居る。 その中をこのお嬢さんを守っていけるってな、本気で思ってるのかい?」 先程の提案をなにを覆そうとしているのだろう、この人は。 「さっき言っていたことと違うじゃないですか!わたしは唯ちゃんを守ります!」 なんだろう、さっきからわたしは怒りっぽくなっている。 「だから福路美穂子、お前独りじゃ無理だって言ってるだろ」 「無理でもやるんです!出来ようが出来なかろうが、守るって決めたんです!」 伊達さんは首をすくめた。 アメリカ人がよくやるポーズだが、戦国武将がやると違和感がものすごい。 「福路美穂子、Coolになれ。無理なことは無理と認めるのは恥じゃない」 「恥とか恥じゃないとか、どうでもいいんです!」 あぁ駄目だ。これって平行線だ。なんでこうなったんだろう。 わたしって、こんなに聞き分けの悪い人間だっただろうか。 「んじゃあよぉ」 不意に傍らで声がする。ヴァンさんだ。起きていたんだ。聞いていたんだ。 恥ずかしい。 「つまり旦那はこう言いたいんだろ?"俺が着いて行くから安心しろマイハニー"ってよ」 えーっと。 こういう時言う言葉って一つだと思うんです。 「「はぁ?!」」 思わずハモって言ってしまった。 ■ 結局の所、伊達さん自身は南下するらしい。 時間が経ったとはいえ、何らかの痕跡を見つけることは出来るだろうと言うことだ。 わたしは秋山澪の件を今一度頼み込み、ひとまず二手に分かれることにした。 ヴァンさんは変なことを言った責任を取る意味で、わたしたちと同行することとなった。 もしかしたらギャンブル船の景品に、ダンが居るかも知れないというと 何故かすごく怖い顔をして、同行することに同意してくれた。 さて、出発しようか、と言うところで唯ちゃんが起きてくれた。 まだ眠いのか目元をゴシゴシと擦る姿が愛らしい。 「ん~、おはようございま~す」 あくびとともに発せられた言葉は、私が忘れかけていた日常そのもので。 やはり唯ちゃんはすごいって、素直に思えた。 唯ちゃんは伊達さんの姿を見ると、急にかしこまって頭を下げた。 え?唯ちゃん、伊達さんのこと知っているの? 「筆頭さん、あずにゃんをありがとうございました」 言われた伊達さんも呆気にとられている。 どうやら面識はないみたいだ。 なら、どうしてだろう。寝ぼけているのだろうか。 「唯ちゃん、あずにゃんさんってもしかして中野梓さんのこと?」 闘技場で聞いていた唯ちゃんの後輩の名前を出す。 「うん、真面目でね。すごい練習熱心なすごい子だよ」 「その梓と言う女と俺が、どんな関係があるってんだ?」 伊達さんは怪訝と言う言葉を形にしたような顔で、唯ちゃんに聞く。 「えと、あずにゃんにそう言われたから、言っただけで。 あ、宝石と綺麗な着物をありがとうって言ってました!」 言われて伊達さんは彼にしては珍しいだろうことに、驚きを隠そうとはしなかった。 「なんでそれを知っていやがる?!」 【C-4/北西/一日目/日中】 【伊達政宗@戦国BASARA】 [状態]:健康 [服装]:眼帯、鎧 [装備]:六爪@戦国BASARA [道具]:基本支給品一式(ペットボトル飲料水1本、ガーゼ消費)不明支給品1(武器・確認済み)、田井中律のドラムスティク×2@けいおん! [思考] 基本:自らの信念の元に行動する。 1:なんでそれを知っていやがる?! 2:闘技場を目指す。 3:小十郎の仇を取る。 4:主催を潰す。邪魔する者を殺すことに抵抗はない。 5:信長、光秀の打倒。 6:ゼクス、一方通行、スザクに関しては少なくとも殺し合いに乗る人間はないと判断。 7:戦場ヶ原ひたぎ、ルルーシュ・ランペルージ、C.C.に出会ったら、12時までなら『D-6・駅』、 その後であれば三回放送の前後に『E-3・象の像』まで連れて行く。 8:馬イクを躾けなおす。 [備考] ※信長の危険性を認知し、幸村、忠勝とも面識のある時点。長篠の戦いで鉄砲で撃たれたよりは後からの参戦です。 ※長篠で撃たれた傷は跡形も無く消えています。そのことに対し疑問を抱いています。 ※神原を城下町に住む庶民の変態と考えています。 ※知り合いに関する情報をゼクス、一方通行、プリシラと交換済み。 ※三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランに同意しています。 政宗自身は了承しただけで、そこまで積極的に他人を誘うつもりはありません。 ※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。映像データをスザクが消したことは知りません。 ※スザク、幸村、暦、セイバー、デュオ、式の六人がチームを組んでいることを知りました。 ※荒耶宗蓮の研究室の存在を知りました。しかしそれが何であるかは把握していません。 また、中野梓の遺体に掛かりっきりで蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界には気付きませんでした。 ※小十郎の仇(ライダー)・浅上藤乃の外見情報を得ました。 ※中野梓が副葬品(金銀・宝石)と共にB-3付近に埋葬されました。 ※宝物庫にはまだ何らかの財宝(金銀・宝石以外)があります。 【福路美穂子@咲-Saki-】 [状態]:前向きな狂気、恐怖心の欠如、健康だが心音停止 [服装]:血まみれの黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない [装備]:レイニーデビル(左腕)、大包平@現実 [道具]:支給品一式、童子切安綱@現実、燭台切光忠@現実、中務正宗@現実、雷切@現実、和泉守兼定@現実 [思考] 基本:唯ちゃんを守る 1:唯ちゃん? 2:主催者を殺す。ゲームに乗った人間も殺す。 3:みんなで神様に祈る場所を通って、ギャンブル船に向かう 4:ひとまず魔法と主催の影を追う。この左腕についても調べたい 5:力を持たない者たちを無事に元の世界に返す方法を探す 6:対主催の同志を集める。その際、信頼できる人物に政宗から受け取った刀を渡す 7:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら? 8:張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える 9:トレーズと再会したら、その部下となる? ?:唯ちゃんを独占したい。 [備考] 登場時期は最終回の合宿の後。 ※ライダーの名前は知りません。 ※トレーズがゼロの仮面を被っている事は知っていますが ゼロの存在とその放送については知りません ※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています ※浅上藤乃の外見情報を得ました ※自分が死亡もしくはそれに準ずる状態だと認識しました ※織田信長の外見情報を得ました ※レイニーデビルを神聖なものではなく、異常なものだと認識しました。 【黒の騎士団の服@コードギアス】 黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム 超ミニスカ 【レイニーデビル@化物語】 魂と引き替えに三つの願いを叶える低級悪魔。 自らの意志は持たないが、所有者の表の願いの裏に潜む願いすらも叶えようとする。 叶えることが不可能と判断した場合、契約を返上する。 なお、福路美穂子の肉体は既に死亡しているが契約により生かされている状態である。 また、何らかの理由でレイニーデビルが去った場合、福路美穂子は死亡確定となる。 福路美穂子の願い 表1:平沢唯を守る 裏1:主催者を殺す(主催者の一人である遠藤の声に反応する) 【ヴァン@ガン×ソード】 [状態]:健康、ダンを奪われた怒り [服装]:黒のタキシード、テンガロンハット [装備]:ヴァンの蛮刀@ガン×ソード [道具]:基本支給品一式、調味料×大量、徳用弁当×6、1L入り紙パック牛乳×5 [思考] 基本:ダンを取り戻す 0:なんで俺がついていかなきゃならねぇんだよ?! 1:また宇宙開発局を目指す 2:機械に詳しい奴を探す 3:向かってくる相手は倒す 3:上条当麻を探して殴る 4:主催とやらは気にくわない [備考] ※26話「タキシードは明日に舞う」にてカギ爪の男を殺害し、皆と別れた後より参戦。 ※ヴァンは現時点では出会った女性の名前を誰一人として覚えていません。 ※死者が蘇生している可能性があることを確認しましたが、結論は保留にしました。 ※馬イクに騙されていることに気付きました。 【伊達軍の馬@戦国BASARA】 [状態]:イノベイターの兆し [服装]:なし [装備]:傷ついたゲイボルグ(メタファー) [道具]: [思考] 基本:ヒヒーン 1:アレ?声が出ない?! [備考] ※バイクのハンドルとマフラーっぽい装飾類を失くしました。見た目では普通の馬と大差ありません。しかし、色々な意味で「馬イク」です。 ※主催の調教の効果消失。乗せる人間をある程度選ぶようになりました。 ※GN粒子の影響下において意思の交信が可能です。こちらが伝えようと思ったこと以外は相手に伝わりません。可能領域・限界時間については不明です。 ※GN粒子の影響で身体に変化が起きました。少なくとも身体能力や新陳代謝は向上しています。 ※女性によって急所に大ダメージを負った事で女性恐怖症になりました。 人の生死は、どの瞬間に決まるのであろうか。 現代医学においてすら、その境界線は定まらない。 死は誰の上にも降り注ぐものでありながら、その実態を知るものは誰ひとりとして居ないのだ。 平沢唯の身に起こった事態は、そういった神の領域での出来事。 だが、これは珍しいことでは決して無い。 臨死体験を経験した者は数知れず居るし、虫の知らせを経験したものも多いだろう。 これが平沢唯のただの夢であるか、完全なる予知夢であるか、 何らかの手段で得た魔術であるか、GN粒子なら仕方ないのか、 結界の歪みが生んだ結果なのか。 それは神のみぞ知る、もしくはのちの書き手さんのみぞ知ることなのだ。 【平沢唯@けいおん!】 [状態]:健康 [服装]:桜が丘高校女子制服(夏服) [装備]: [道具]:武田軍の馬@戦国BASARA [思考] 基本:みんなでこの殺し合いから生還! 1:あずにゃんからの伝言も伝えたし、みほみほと一緒にギャンブル船にGOGO! 2:妹を探す。でもどんな状況にあるかはあんまり考えたくない…… 3:澪ちゃんにまた会ったらどうしよう…… 4:魔法かあ……アイスとかいっぱい出せたらいいよね…… [備考] ※東横桃子には気付いていません。 ※ルルーシュとの会話の内容や思考は後の書き手さんにお任せ ※浅上藤乃と眼帯の女(ライダー)の外見情報を得ました 時系列順で読む Back 「無題」じゃあ今いち呼びにくい! このシュトロハイムが名づけ親になってやるッ! そうだな……『メキシコに吹く熱風!』という意味の「サンタナ」というのはどうかな! 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The Hollow Shrine(前編) ◆C8THitgZTg 最初から出会わなかったのなら 喪うことはない。 友人を作らなければ。 仲間にならなければ。 誰かを愛さなければ。 親しくなりさえしなかったなら 喪うことはない。 最期まで出会わずにいられなかったのなら 喪うしかない。 友人を作ったから。 仲間になったから。 誰かを愛したから。 親しくなってしまったなら 喪うしかない。 ◇ ◇ ◇ 「凄いな……」 士郎は絢爛と飾られたホールを見渡して、そう呟いた。 そこは嘆息するほどに豪華な空間であった。 呆れるほどに高い天井。 目も眩むばかりの装飾の数々。 何十人、もしくはそれ以上の人間を収容しうる広さ。 全てが浮世離れしていて、ここが船の一室であることを忘れそうになってしまう。 「……悪趣味な内装ですわ。外見ばかり取り繕って、中身は空っぽ……」 相槌を打つ黒子の声はどことなく弱々しかった。 ふらつく足取りで壁沿いに歩き、ソファーに腰を下ろす。 青ざめた顔が、黒子の不調を如実に物語っている。 乗り物の揺れと加速による平衡感覚の異常―― 医学的には動揺病、もしくは加速度病と呼称される、俗に乗り物酔いと言われる症状だ。 「それにしても、なんて無茶な運転だったんでしょう……まだ頭がクラクラしますわ」 「ああ、確かにアレは凄かったな……」 ここに来るまでの間、グラハムはひたすらにジープを『操縦』し続けた。 急加速に急減速は当たり前。 他の車両が走っていないのをいいことに、車線の違いは完全に無視。 どんな不整地でも容赦なくアクセルを踏み込んでいたほどだ。 ジープの最高速度は毎時九十キロメートルから百十キロメートルにも達する。 流石に常時限界までスピードを出していたわけではないが、常識外れの走行だったのは間違いない。 「それでもあの二人は平気だったみたいだけどさ」 「あのお二方はパイロットなんでしょう? あれくらい大丈夫に決まってますわ……」 黒子は賞賛とも皮肉ともつかないことを口にして、ペットボトルを開けて少しだけ喉を潤した。 あれだけの暴走の直後だというのに、運転していたグラハムはおろかゼクスまでもが平然としていた。 尤も、二人の経歴を考えれば当然のことだと言えるだろう。 黒子には知る由も無いが、二人はそれぞれのモビルスーツ史に名を残すエースパイロットでもある。 不可能とされていたフラッグの空中変形を成し遂げ、その機動に名を冠されたグラハム。 並みのパイロットならば殺人的な加速度で命すら危ういトールギスを乗りこなしたゼクス。 どちらも常人離れした対G能力を持っている。 その点で黒子はただの人間だ。 学園都市では大能力者(レベル4)に分類されているが、耐久力は少女の域を超えはしない。 「それに比べて、わたくしときたら……」 ペットボトルを握る手に力が込められる。 肉体の丈夫さで劣っているのは深く気に病むことではない。 だが……いや、だからこそ、それ以外のところで足を引っ張ることだけは避けなければならなかった。 これは、ギャンブル船に到着してすぐのことだ。 グラハムは乗り捨て同然にジープを飛び降り、船内へと駆け込んでしまった。 利根川と真宵を手にかけた犯人が潜んでいるかもしれないのに、単独行動は危険極まりない。 ゆえに黒子は己の不調を隠して彼を追いかけようとした。 それを咎めたのは、他でもない衛宮士郎であった。 「…………」 黒子はそこから先の口論を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔をした。 体調が悪いなら残るべきだと言い張る士郎。 単独行動をさせるわけにはいかないと反論する黒子。 自分のことながら、振り返るだけで頭が痛くなるほど低レベルな応酬であった。 冷静になって考えれば、どっちもどっちだと評するより他にない。 独断専行を許すのは確かに危険だ。 しかし空間転移すらできないコンディションで追いかけても、足手纏いになるのが関の山だろう。 そもそも下らない口論で時間を潰すこと自体が愚の骨頂だったのだ。 ゼクスが仲裁に入り、グラハムへの追従を申し出てくれなければ、タイムロスは更に拡大していたに違いない。 「気にするなよ。白井は女の子なんだから、無理はしちゃ駄目だ」 結局、グラハムとゼクスが衣達を捜索し、黒子と士郎はこの大ホールで待機しておくことになった。 待機といえば聞こえはいいが、現実は捜索からのリタイア。 自分が具合を悪くしなければ―― せめて平静さを失くしていなければ―― そんな思いが黒子の肩に圧し掛かっていた。 「あまり慰めないでくださいませ。余計と惨めになりますわ」 黒子は囁くような声で答えた。 先ほどからの会話は全て小声で交わされている。 利根川と真宵を殺した何者かがいるかもしれない以上、このホールも安全地帯ではないのだ。 少なくとも黒子が回復するまでは、静かに身を潜めておく必要がある。 「だからそんなこと言うなよ。……はい、薬」 「……ありがとうございます……ところで、これはどこから?」 士郎が手渡したのは、どこにでも売っていそうな錠剤の酔い止めだった。 都合のいいことに酔ってから服用しても効果があるタイプである。 「ゼクスがくれたんだ。俺達と会う前に調達した道具の中にあったんだってさ」 「そうだったんですの……。何から何まで、迷惑かけっ放しですわね」 ペットボトルの水で錠剤を二つ嚥下する。 実際に酔ってから飲んでも効果は控えめだろうが、飲まないよりはいくらかマシだろう。 一息つき、蓋が開いたままのペットボトルを傍らに置く。 しかしそれがまずかった。 大ホールのソファーは、一面を飾る装飾品と同様の高級品だ。 座り心地がいい分、重みが掛かった分だけ沈んで変形してしまう。 歪んだ面に置かれたペットボトルは、当然のように安定を崩し、床に中身をぶちまけた。 「あっ……」 咄嗟に容器を押さえるも、半分以上が零れてしまった。 黒子は再度溜息をつき、スカートのポケットからハンカチを取り出した。 たかが水とはいえ痕跡を残すのは望ましくない。 第三者からすれば、ここに誰かがいた証拠となってしまうのだから。 足元の水溜りをハンカチで拭うと、あっという間に水が浸み込んで使い物にならなくなった。 布が薄すぎて零れた水を吸いきれないのだ。 「これじゃ駄目ですわね。何か別のものは……」 黒子の呟きには微かな苛立ちが込められていた。 他に使えそうなものはなかったかと考えるより先に、聞き覚えのある言葉が耳に入った。 「投影、開始――(トレース・オン)」 「え――?」 それはどこで聞いた言葉だったか。 黒子が思い出すより早く、士郎は床に膝を突いて水を拭き取りはじめていた。 その手には一枚のハンドタオル。 どこから調達したのか分からないが、汚れひとつない新品だ。 「あの、衛宮さん? 似たような質問で恐縮なのですが……それはどこから?」 「えっと……これもゼクスから貰ったんだ」 説明としては筋道が通っている。 しかし士郎が僅かに言いよどんだのを、黒子は聞き逃さなかった。 「そうですか」 大して気にしていないように振舞いながらも、隠し事の理由を考える。 動機は単なる好奇心だ。 隠し事そのものを責めるつもりは一切ない。 黒子も能力のことを殆どの相手に隠している以上、士郎に文句を言える立場ではないのだから。 「……もしかして」 そこでようやく思い至る。 先ほど士郎が呟いた言葉―― アレは首輪を解析したときに聞こえた単語ではなかったか。 ――トレース・オン。 その一言が魔術を発動するキーワードになっているのだとしたら。 「衛宮さん、もしかしたらわたくしの勘違いかもしれませんけど……」 まさにその瞬間であった。 廊下へ繋がる扉の向こうから、微かな銃声が鳴り響いたのは。 「――な」 「え――」 黒子と士郎の視線が一瞬だけ交差する。 うっかりすれば聞き逃したかもしれないほど小さな音だった。 士郎は壁に立てかけてあったカリバーンを掴むと、銃声のしたほうへ駆け出していた。 「白井はそこにいてくれ!」 走り去っていく士郎の背中を、黒子はただ見送ってしまった。 あまりに急な展開に思考が追いつかない。 銃声? どこから? そこにいて? 貴方はどこへ? 縺れた思考が一本に繋がり、ようやく成すべきことを理解する。 「ちょっと! 衛宮さん!」 士郎を追って扉を押し開ける。 しかし時既に遅く、がらんとした廊下に人影はない。 どこかの岐路で曲がったのだろうか。 黒子は悔しげに、色の薄い唇を引き結んだ。 身勝手な行動を取った士郎を責めるのは容易い。 容易いが、正しいとは限らない。 あんな強行軍でギャンブル船に戻ったのは、衣とカイジの元へ迅速に駆けつけるためだ。 更に言えば、利根川と真宵の死を伝えられたからでもある。 それらは『衣とカイジが殺されてしまう前に二人と合流する』という目的に収束する。 ならば銃声を聞いて駆けつけることに何の問題があるというのか。 勿論、単独行動を取ったのは責められるべき点だが―― 「なんて――無様なんでしょう」 置き去りにしてしまうことと、置き去りにされてしまうこと。 一分一秒の違いで生死が変わりうる状況なら、悪いのはきっと後者だ。 自分が体調を崩していなければ。 あるいは、銃声が聞こえたときにすぐ動けていれば。 きっとこんなことにはならなかったに違いない。 黒子はがらんどうの廊下の向こうを見やり、静かに扉を閉めた。 どこかの誰かが言っていた。 加速度病を起こしやすい要因は、空腹、満腹、睡眠不足に物理的な圧迫感。 そして――精神的なストレス。 いつからだろうか。 こんなにも心が治まらなくなったのは。 「そんなの、分かりきってますわ……」 黒子は扉に体重を預け、ずるずると膝を曲げた。 静か過ぎる空間が固体じみた密度で圧し掛かって、黒子の胸の奥を軋ませる。 広大なホールにいるのは自分一人。 そう、どうしようもないほどに独りだから。 『あの人はもういない』という現実を、否応なしに突きつけられてしまうのだ。 「…………っ」 名前を叫ぶことすらできない。 もしもここで口にしてしまったら、抑えてきた感情を全て吐き出すまで止まらなくなる。 絶望。恐怖。孤独。喪失。不安。恐怖。後悔。慙愧。無念。 憂鬱。憎悪。空虚。諦念。憤怒。悲嘆。苦痛。怨恨。愛憎。 一度でも致命的な決壊を許してしまった堤防は、もう二度と使い物にならない。 そうなる前に穴を埋めないと、壊れた箇所から破損が広がり、溢れ尽くすまで崩れ続ける。 後に残るのは堤防を失った裸の自分だけ。 心の強い人なら、そこから新しい堤防を組み上げて立ち直ることができるだろう。 むしろ造り直すことで良い方向に転がることがあるかもしれない。 けれど黒子は、自分がそこまで強い人間だと信じることができなかった。 「…………」 ふと、思う。 これまでの自分は、この苦しみをどう耐えてきたのだろうかと。 ◇ ◇ ◇ ――彼女はゆったりとした手付きで、自動拳銃のグリップからマガジンを抜き取った。 焦るでもなく、焦らすでもなく、無難にマガジンの交換を終わらせる。 この程度は手順さえ分かれば誰でも出来ることだ。 撃ち尽くしたばかりの空弾装をデイパックへ放り込む。 赤みを帯びた瞳に正気の色は見られない。 衝動とは、感情ではない。 自身の外部から襲い掛かる暴力的認識――それを衝動と呼ぶ。 ならば彼女を突き動かすのは正しく衝動だ。 『日本人を殺せ』と強制する魔性の暴力。 彼女の内から湧き上がったのではない目的意識。 しかし、その凶行を実現するのは、他でもない彼女自身。 故に人々は彼女をこう呼ぶ。 虐殺皇女と―― ◇ ◇ ◇ 「……遅かったか」 見つけてしまったソレを前に、ゼクスは苦々しく呟いた。 二人をホールに残してグラハムを追いかけたのが五、六分前。 先行するグラハムとの時間差は一分前後といったところだった。 走れば埋まると思われた距離だったが、ゼクスは未だにグラハムとの合流を果たせていない。 この船を一時拠点にしていたグラハムと、初めてここを訪れたゼクスとでは情報量が違いすぎたのだ。 予備知識を元に動き回る相手を、土地勘のない者が捕まえるのは難しい。 いっそ自分が少女と残り、少年に捜索を任せたほうがよかったのではないか。 ゼクスは思考の片隅でそう考えながら、道なりに船内を駆け回った。 その結果、辿り着いたのがこの場所である。 「そこまで時間は経っていないようだが……」 必要最低限の情報はジープでの移動中にグラハムから聞かされている。 船に残っていたという人々については特に念入りに確かめた。 利根川幸雄。放送で名前を呼ばれた一人で、元帝愛幹部だったという中年の男。 八九寺真宵。同じく放送で名を呼ばれた、十代前半の少女。 伊藤開司。丸みのない顔付きで、頭髪を無造作に伸ばした青年。 天江衣。金色の長髪に大きな髪飾り。外見的には八九寺真宵と同年代か幼い程度。 いずれの人物とも直接出会ったことはないが、与えられた情報から、人となりの大枠は掴めたつもりだ。 それ故に確信できる。 この亡骸は伊藤開司の成れの果てであると。 無人の甲板。 船内へ通じる出入り口の傍。 陽光と船体の影との間に伊藤開司の亡骸はあった。 血だまりにうつ伏せで倒れ伏し、背中に開いた孔を晒している。 ゼクスは甲板に膝を突き、背中の銃創を検めた。 流血の様子からして、前のめりに倒れたまま動かされていないようだ。 伊藤開司に対してゼクスは特別な感情を持っていない。 だからこそ、こうして冷静に状況を検分できるのだろう。 一通り背中の創傷を観察し終えると、次は遺体を裏返して胸の傷を調べる。 銃創は様々な情報をもたらしてくれる。 ただ銃創を見るだけでも、撃たれた方向や銃の種類の見当がつく。 火薬の付着などを調べれば発砲した距離まで判別できるほどだ。 そして、伊藤開司の銃創からは以下のようなことが分かった。 胸の傷は小さく背中の傷が大きい。 これは彼が正面から胸を撃たれ、弾が背中へ貫通していったことを示している。 周囲の状況からして、犯人は船内と甲板の境界付近で発砲したようだ。 また胸の傷のサイズから、使用されたのが拳銃であると推定できる。 「やはり第三者の介入……まずいな、これは」 ゼクスの言葉には焦りと確信が込められていた。 伊藤開司の命を奪った弾丸は、心臓を水平に撃ち抜いている。 背丈の低い天江衣が発砲したにしては角度が不自然だ。 他の人物――利根川幸雄と殺しあった結果というのもありえまい。 心臓が何らかの理由で停止した場合、数秒から十数秒で脳が酸欠に陥り、死亡する。 つまり、伊藤開司が撃たれたのは早くとも放送の十数秒前。 利根川幸雄と相打ちになったと考えるには無理がある。 そして八九寺真宵に至っては両方の理由が当てはまってしまう。 この状況を説明する最適解、それが、第三者による殺害。 ゼクスはやおら立ち上がり踵を返した。 グラハムの追跡を続けるべきか、一旦ホールへ戻って、このことを二人に伝えるべきか―― 「待て、これは……」 ゼクスは踏み出しかけた足を止め、足元のそれを一瞥した。 そして再び、伊藤開司の亡骸に手をかける。 「まさかとは思うが……」 偶然の出来事という可能性は充分に考えられる。 しかし、もしこれが『明確な意図の下に成された』のなら、断じて無視するわけにはいかない。 ゼクスは発見したそれを記憶に刻み、船内へ駆け戻った。 無論、伊藤開司を殺した者もそれに気付いているかもしれない。 ゼクスは脇目もふらず、甲板へ向かう際に通った道を逆走していく。 階段へ続く角を曲がろうとしたときだった。 聞き覚えのない女の声が、ゼクスを呼び止めた。 「あの! すみません」 「……っ!」 咄嗟に振り返ると、そこにはスーツ姿の女がひとり、廊下の奥で佇んでいた。 距離は十メートル程度、或いはもう少しあるだろうか。 ゼクスは己の迂闊さに表情を険しくした。 見通しが悪い場所だったとはいえ、声をかけられるまで、女の存在を悟れなかったのだ。 第三者の殺戮を想定したばかりだというのに、有り得ざる油断である。 むしろ背後から銃殺されていないのが幸運といえるだろう。 ゼクスは周囲に意識を巡らせながら、女と対峙するように向きを変えた。 「――ああ、よかった。無視されてしまったらどうしようかと思っていました」 女はほっと胸を撫で下ろしたらしかった。 あまりに気の抜けた仕種に拍子抜けを禁じえない。 高度な教養を身につけてきたのか、行動や言葉の端々に気品が見え隠れしている。 例えるなら、雰囲気は王侯貴族のそれに近い。 少なくとも戦場慣れをしているようには感じなかった。 女は観察されていることに気付いていないのか、ゆったりとした足取りでゼクスに歩み寄ってきた。 「私はユーフェミア・リ・ブリタニアと申します。 少しお話をしたいのですが、お時間をいただけないでしょうか」 ◇ ◇ ◇ ――そして少女は涙を流す。 ああすればよかった。 こうすればよかった。 ああしなければよかった。 こうしなければよかった。 後悔が幾ら積もろうと、割れた鏡は戻らない。 時計の針は戻らない。 ◇ ◇ ◇ グラハムは独り無人の廊下を走り続けた。 船内通路に窓はなく、白色の間接照明だけが狭い路を照らしている。 しかし不気味さすら感じる静寂も、グラハムの足を鈍らせるものではない。 船室という船室を開け、物陰という物陰を覗き、ひたすらに船内を駆け回る。 「天江衣! 私だ、グラハム・エーカーだ!」 洞穴じみた薄暗さと静けさの中で、グラハムの声だけが反響する。 ギャンブル船に帰還した直後、彼は一も二もなく船内へ駆け込んだ。 その行為がどれほど危険かは自覚している。 しかし時には、無理を貫き道理をこじ開けなければならない場合もあるのだ。 かつて、民間人が勤務する軍需工場を襲った新型ガンダムを、単機で迎撃したときのように。 「聞こえたなら返事を頼む! 天江衣!」 グラハムをこうまで突き動かす動機。 それは只ならぬ焦りであった。 別行動の開始から放送までの短い間に、二人が命を落とした。 ギャンブル船で恐るべき出来事が起こったのは想像に難くない。 しかも、地獄は今も続いているのかもしれないのだ。 「……ここにもいないか」 グラハムは苦々しく言い捨て、空っぽの客室の扉を閉めた。 いくつ扉を開いても、目に映る風景はどれも同じ。 豪勢な室内灯。上等な絨毯。真新しいシーツのベッド。 代わり映えのなさに眩暈すら感じそうになる。 だが、諦めるわけにはいかない。 友達を作ることができると請け負った―― 彼女の安全を保障すると約束した―― その言葉を嘘にしてたまるものか。 「更に上階、いや――」 この一区画だけとっても数十もの客室が並んでいた。 船全体の部屋の総数に至っては、幾つになるのか見当もつかない。 それらを虱潰しに探すのはあまりにも効率が悪すぎる。 想像するのだ。 衣がどのような状況に置かれているのかを。 まず、船内の異変に気付いてすらいない場合。 これはまずありえないだろう。 利根川と真宵は衣と行動を共にしていたはずであり、放送も流れた後なのだから。 次に、異変には気付いているものの、活動が制限されている場合。 殺人者に捕らわれているか、逃げ場所が限られてしまった状況。 或いは何らかのトラブルで負傷し、身動きできない状況。 いずれにせよ最悪のケースだ。 衣の居場所を予測することなどできない。 そして、異変を察知していて尚且つ自由に活動できる場合。 これは最大の希望的観測だ。 肉体が健康で、かつ行動範囲が限定されていない状態の人間は、どこへ逃げ場を求めるのか。 例えば、確実に身を隠せる空間。 例えば、破壊されにくい頑健な守りの中。 「あるいは、一度訪れて見慣れている場所……まずはあそこだ!」 グラハムは踵を返し、脳裏に浮かんだ場所を目指して駆け出した。 天江衣が無事で、なおかつ逃走先を選べるなら、訪れたことのある場所に身を寄せるはずだ。 確率は五分か六分と踏んでいたが、闇雲に探し回るよりずっといい。 昼なお暗い廊下を走り抜け、グラハムは目的の扉を勢いよく押し開けた。 「天江ころ――――!」 その瞬間、グラハムの身体を鈍い衝撃が襲った。 一歩、二歩とたたらを踏み、廊下の壁際で踏み止まる。 驚きに目を見開き、衝突してきたそれを見下ろす。 小刻みに震える、耳のような飾り。 腰に届かんばかりの金糸の頭髪。 捜し求めていた少女が、そこにいた。 「グラハム……、えぐっ、利根川が……ひぐっ……カイジが……。 麻雀をしたのに……衣が白河夜船であったばかりに……ぐすっ……とーかぁ……」 衣はグラハムにしがみ付いたまま、混乱した思考をそのまま口に出している。 言葉に脈絡がない上に、涙声でひどく聞き取りづらい。 グラハムは軍服が濡れるのも構わず、衣の身体を抱き寄せた。 何があったのかは問い詰めない。 今はただ、衣が落ち着きを取り戻すまで待っている。 一分。 五分。 十分。 「やはり衣には……ひっく……知音を得ることなど……」 「…………」 時間が経つにつれて、嗚咽が小さくなっていく。 グラハムは噛み締めた歯が軋む音を聞いた。 この少女にどんな咎があったというのか。 苦しみもがき、悲しみに暮れなければならない理由がどこにある。 自分のように修羅として生きた者が地獄に堕ちるなら、それも宿命と受け入れられよう。 ならば、天江衣がこの生き地獄に堕ちる道理とは何なのか。 「赦せんな……」 怒りの矛先は幾らでもある。 衣を殺し合いに放り込んだ帝愛。 魔法とやらを売りつけた共謀者。 目的は見当もつかないが、私利私欲が根底にあるのは間違いあるまい。 だが、最も赦しがたいのは―― 「……何より、私自身を赦せそうにない」 「それは違うぞ、グラハム!」 衣がグラハムを見上げた。 涙やら他の液体やらで、顔中がひどいことになっている。 しかし眼差しはまっすぐにグラハムを捉えていた。 「グラハムは戻ってきてくれた……! 黯然銷魂としていた衣を……助けに来てくれた! だから……」 髪を振り乱し、グラハムの自責を否定する。 約束を蔑ろにした彼を怨思するどころか、肯定すらしているのだ。 「……その言葉、ありがたく受け取らせて頂こう」 グラハムはまるでガラス細工を扱うような慎重さで、衣の髪を撫でた。 ギャンブル船三階、会議室前。 かつて仲間達と集い、今生の別れとなったその場所で。 ◇ ◇ ◇ ――彼は死んだ。 どうしようもないほどの致命傷だ。 心臓に撃ち込まれた銃弾は、心筋に孔を穿ち、血流の中枢を潰してしまった。 胸の痛みが強過ぎて、背中が床にぶつかった衝撃すら感じない。 肉体を巡った静脈血を受け入れる右心房。 動脈血を肺から受け取って左心室へ送る左心房。 肺へ流れる静脈血が通る肺静脈。 酸素が満ちた血液を全身に届ける大動脈。 それら全てに孔が開いた。 心臓がどれだけ拍動しても、肝心の血液は溢れてしまう一方だ。 これでは絶命するより他にない。 それでも今はまだ血管を流れている血液がある。 見方を変えれば、その酸素が尽きるまでは生きていると言えるかもしれない。 しかしそれもごく僅か。 不可避の結末へ転げ落ちるこの瞬間を、死と呼ばずして何と言うのか。 最後の鼓動が動脈を駆けのぼる。 これが脳髄を通り過ぎれば、彼は終わる。 意識が消える。 記憶が消える。 肉体が潰えれば、魂までもが霧散する。 彼という人格が消えてしまう。 望みも決意も何一つ達することなく消えてしまう。 光などなく、闇さえもない、無の中へと墜ちていく。 そこではきっと、無という言葉も、墜ちていくという意味さえもないのだろう。 それでも―― ほんの数秒で終わってしまう命でも、何かできるはずだ。 小さな肩で震えていた、あの儚い少女のために。 時系列順で読む Back ぽかぽか時間 Next The Hollow Shrine(後編) 投下順で読む Back ぽかぽか時間 Next The Hollow Shrine(後編) 179 その日本人をぶち殺す 天江衣 188 The Hollow Shrine(後編) 179 その日本人をぶち殺す ユーフェミア・リ・ブリタニア 188 The Hollow Shrine(後編) 174 解明への灯 ゼクス・マーキス 188 The Hollow Shrine(後編) 174 解明への灯 グラハム・エーカー 188 The Hollow Shrine(後編) 174 解明への灯 衛宮士郎 188 The Hollow Shrine(後編) 174 解明への灯 白井黒子 188 The Hollow Shrine(後編)
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crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(二) ◆ANI3oprwOY ―――――――――――――――――――― ◆ ◇ ◆ ――――――――――――――――――――――― ―――そうさ、楽しんだもん勝ちだぁな、つまりはよ。 /勇侠青春謳・劍撃ノ参<諧謔> ――誰だって自分の人生の主役は自分自身だ。 そんな言葉をきいたことが、きっと誰でも一度はある。 けれども、幼き頃のディートハルト・リートにはそれが真実だとは到底思えなかった。 世界は欺瞞に満ちていて、視界は虚栄に塞がれて。輝いて見えるものなどは何もなくて。 目に映る全ては偽物にしか見えなかった。 同じような顔で笑って、同じような顔で泣いて。 明日死んでも世界に何ら影響をあたえることがない、いくらでも代わりの利く存在。 焦点があっていないような、フレームに収まっていないような、どうでもいいことばかりが起こる毎日。 誰も彼もがその程度だった。――自分自身も含めて。 そこそこ真面目で、それなりに人付き合いの良い仮面をかぶりながら生きているうちに、彼は確信にも似た自覚を持つに至る。 ――間違いない。私は『脇役』だ。 誰に言われるまでもなく、理解した。 世界にはきっと二種類の人間がいて、自分はその劣った方だ。 きっとどこかで輝きを見せているだろう彼らとは違う――。ディートハルト・リートは、違うのだ、と。 ……だからといって、落胆に暮れたというわけではない。 なるほど、そういうことかと得心したというのが本音だっただろう。 納得がいった。 両親も、友人も、恋人も、自分自身も偽物で。 世界にとってどうだっていい存在で。 だからこそ、日々はこれほどまでに味気なかったのだと。 そう、受け入れることが出来た。 やがてディートハルトは放送業界へと入る。 彼は偽物で、しかしだからこそ本物に憧れた。 恋焦がれたと言ってもいい。 本物の、『主役』に近づくには、そこはとても都合が良かった。 性にもあっていたのだろう。 彼は次々と企画を成功させて敏腕プロデューサーと呼ばれるようになっていった。 そこで、彼はもうひとつの自分の本質に気がつく。 完成した本物よりも、これから完成へと向かう本物のほうが興味深いものがある、ということに。 それはあるいはコンプレックスの裏返しだったのか。 自分では気にしていないつもりでも、未完成なものが完成に至るというその図式に不完全な自分自身を重ねていた、ということなのか。 いや、それは恐らく誰しもが持っているようなものなのだろう。 未熟な雛がやがて成長し、大空へと羽ばたく姿を美しいと思うように。 ディートハルトは、それが少し他人よりも深く、また苛烈であったというだけなのだろう。 そして、このふたつの精神が。 何事もなければ一人のプロデューサーとして平穏に平凡に終わっていたはずの彼の人生を大きく狂わせることとなる。 ――『ゼロ』との出会い。 そこにディートハルトは『未完成』な『本物』の『主役』を感じた。 いままでも何度も仕事で『本物』の気配を感じてきてはいたけれど。 格が違う。核からして違う。 間違いなかった。 この『ゼロ』こそが、本当の、『本物』だ。 幼い頃から求めて止まなかった答えがそこにある。 ――この世界の『主人公』は誰なのか? それこそが、私なのだ。 ……そう、ゼロが答えたような気がした。 黒の騎士団へと入団したディートハルトは、すぐ近くでゼロの功績を見ることが出来る立場となった。 昔からの望みどおりに。 本物を、この目で。『主人公』を近くで感じることができる。 それは素晴らしいことだ。 もっとも、ゼロからそれほど信頼を置かれてはいないだろう。 ディートハルトに限ったことではないが、本当に重要な案件は黒の騎士団員にすら多くは明かされていない。 しかし、それでも構わないとディートハルトは思う。 むしろ、それほどに超然と自分たち『脇役』などは遠ざけていて欲しい。 自分は『脇役』を脱したいと、『主役』に加わりたいと願っているわけではないのだから。 彼を見れば杞憂かとも思うが、万が一にも不純物を混ぜて輝きを濁らせることなどあってはならない。 分相応に、自らの領分をこなして、『主人公』が完全へと変わろうとする過程を見ることが出来るならそれでいい。 それ以上に望むものなど他にはない。 ディートハルトは満足していたのだ。 自分の人生に。 そんな最中だった。 この殺し合いに招かれたのは。 嗤う男に告げられた内容には確かに驚かされた。 魔法、超常能力、平行世界。そのどれもがディートハルトの常識を超えている。 自分が今置かれている状況を考えれば受け入れるしかなかったが、平常であればとても信じられたものではなかっただろう。 そして、そのような完全に近い力を持って行うことが殺し合い、ということに少しばかりの呆れる気持ちもある。 ……だが、けれども狂った発想だ、などとは思わなかった。 要するに、人間の死に様を見たいということなのだろう。 何のことはない。 自分が放送業界にいたころから人間はかわりない。 メディアを少し見れば明らかなように、人間は昔から悲劇が好きなのだ。 残酷だ、悲劇的だ。なんと可哀想なことだろう。 そう口にしながら画面からは目が離せない。 最悪の結末を今か今かと舌なめずりをして待ち望んでいる。 それが少しリアリティを増して行われるというだけだ。 本質的な部分はなんら変わっていない。 ――ディートハルトは数瞬の戸惑いの後に答えを返す。 協力しよう、という趣旨の言葉を。 放送全般の取り仕切りを任されたディートハルトは名簿に目を通しながら思う。 自分の勘が正しいのなら、ここには『本物』が押し込められているのだと。 そんな連中が殺し合いをすればどうなるのか。 惜しいと思う気持ちがある一方、興味を持っているということも否定はできない。 プロデューサーとしての業か。それとも自身もまた矮小なバッドエンドマニアなのか。 ――どちらでも構わない。 ああ……だって、それ以上にまだ死ねないという気持ちが強かった。 ディートハルトが居なくなろうともゼロは目的を果たすだろう。 ディートハルトという存在は、ゼロにとってはその程度の取るに足らぬものに違いない。 だが、ディートハルトは、『ゼロ』の完成をまだ見ていない。 それが見てみたい。 それを見るために、その為だけに生きてきた。 そのためならば、ディートハルトは他人の命も、自分の命すらも惜しむ気にはなれなかった。 だから、逃げた。 だから、ルルーシュ……ゼロがここにいるならば力になろうと思った。 好きを見計らい会場へと降りてでも、絶死の領域だろうと躊躇うことはなかった。 彼ならば何とかしてくれるという思いもあった。 彼ならば――この絶望的な状況をも覆すに違いないと狂信めいた確信すら覚えた。 そうだ……。まだ死ぬわけにはいかないのだ。 私には、まだ。役割がある。 言わなければならないことがある。 伝えなければならない。 リボンズ・アルマークは首輪を解除させようとしている。 具体的に、何をしようとしているかはわからない。 探ろうとも見えては来なかった。 だが、我々にとって良いことだとは到底思えない。 ああ――禁書目録も信用に値しない。 あいつは阿良々木暦に天江衣の首輪の情報を渡した。 本来の権限を越えて。 なぜそんなことをしたのか――? 言うまでもない。 リボンズ・アルマークとつながっているから、暗に首輪を外せと要求するかのような情報を流したのだ。 信じられない。どいつもこいつも。 流れも読めぬ愚か者も、リボンズの息のかかった犬どもも。 ただひとり、ゼロだけが。 ゼロだけが、この窮地を、覆してくれる。 だから、私は生きなければならない。 まだ、この“機体”をゼロへと届けなければならない。 少しでも彼の助けになりたい。 虎の威を借る狐と呼ばれようが構わない。 勝手に呼びたくば呼ぶがいい。 そんな、ものじゃない。 憧れも。嫉妬も。正しくはない。 信仰――少し近い。だが、違う。それだけじゃない。 この感情を正確に、一言で説明することなどできないのだろう。 まだ、死ねないのだ。 ディートハルトは考える。 まだ見ていない。 まだ、見ていないのだ。 それは、きっとすぐ、もうすぐ、あるはずだ。 ゼロが世界を統べる姿を見たいとまでは、言わない。 ここから無事に脱出できるとは――思っていないから。 だから、せめて。 リボンズ・アルマーク。 あの、絶対的強者を。 『完成』仕切ったあいつを――。 打ち砕く姿を見せて欲しい。 死ねない。 見苦しいと罵りたくば罵るがいい。 命汚いと哂いたくば哂うがいい。 知ったことか。 私は、違う。 偽物の人生を偽物とも気づかぬまま生きるお前たちとは違う。 安全なところから必死に生きている人間を嘲る薄汚いお前たちとは違う。 たとえ偽物だとしても。 それでも本物に焦がれた。 近づくために危険をも恐れることはなかった。 私は、ただ見たかっただけなのだ。 ゼロ、あなたなら。 お願いだ。私にとっての神よ。 「――――見せてくれ……。ルルーシュ・ランペルージ……!」 走馬灯。 これまでの人生が流れては消えて行く。 つなぎとめているのは精神。 ただ、求める希望。 純粋に、欲しかった。 未来が見たかった。 ディートハルト・リートという男はそれだけだった。 それだけだから――。 ここで、終わるのだ。 「……あ? 旦那なら今頃死んだんじゃねえの?」 「――――――――――――な」 目を見開いたディートハルトに応えるのは乾いた銃声。 既に致命傷を負っていた身に何ができるはずもなく。 こうして今日もまた一つ。 明日も動かぬ死が積み上がった。 【ディートハルト・リート@コードギアス 反逆のルルーシュR2 死亡】 ■ ■ ■ 「……ったく。一撃で仕留められねえとは俺の腕も鈍ったかねぇ。妙にしぶとい奴だったな」 地に伏せる死体を見下ろしながら、下手人は飄々と言葉を放つ。 見た目は中学生女子。中身は中年男性。その名はアリー・アル・サーシェス。 彼が、若しくは彼女こそが――ディートハルト・リートを殺害した犯人だった。 愚痴愚痴言いながらもだらしなく顔は歪んでいる。 ――一度は拒んだ報酬だったが、何、こういうものなら悪く無いとサーシェスは思う。 胸を弾ませながら(※比喩表現であり、実際の身体描写とは異なる)ごそごそと死体を漁る。 「んー。さてはて、っと……」 いやはや、しかし。 アリー・アル・サーシェスは命を落としたはずではなかったのか? 織田信長との戦いによって爆散するリーオーと運命を共にしたのではなかったのか? 「はっ……バカいっちゃいけねえぜ」 どうして、なぜ。戦争屋アリー・アル・サーシェスともあろうものが下らないプライドに囚われて仮の雇い主のために命を賭けなければならないのか。 くだらない――それは、勝てるなら勝てる方がいいだろう。負けたならやり返してやりたいとも思うに違いない。 だが、それは全て生き延びることが前提だ。 そう――アリー・アル・サーシェスは負けていない。誰よりも足掻いて生き延びる。 ルルーシュが、憂が、スザク、信長が身命を賭ける闘争とて、彼にとっては変わらぬ日常。 いつもどおりの戦争でしかなかった。それ故に、いつもどおりに逃れただけだ。 ――戦争は、生き延びたものの勝ちなのだから。 (――だったら、旦那よりもあの化物よりも、俺の勝ちってことでいいよなぁ?) かかか、と。輝きを見せながら死んでいったもの共を見下しながら端正な顔が歪む。 ああ、そうだ。格好良く死んでいけばいい。真っ直ぐに、希望を目指して、美しく王道をいけばいい。主役らしく。 俺は構わない。悪党の脇役で構わない。小狡く小賢しく小汚く。邪道を醜くすり抜けて。 そして――最後まで生き延びてやろう。 「はは。これだから戦争はやめられねえ――っと、あったあった。これか。大将に聞いてた通りだな」 そうしてサーシェスがディートハルトから取り上げたのは一本の鍵。 目当ての物を見つけてにんまりと微笑んだ後に、“それ”を見上げる。 ディートハルトが主催の元から逃れる際に使用した“機体”。 ルルーシュのために力になろうと、ほか参加者を危険視し、自分が直接使用するべきではないと隠蔽しておいたMS。 そうして、こうやって手にした“起動キー”を合わせれば……そう、“それ”はサーシェスのものとなる。 笑いが止まらない。思えば満足の行く装備を持って戦えたことなどなかった。それはそれで制限プレイのようで楽しいものだったが――。 ゴキゲンにサーシェスは高らかと、再び自分のもとに舞い戻った愛機に対して呼びかけを行う。 「――――さあ、頼むぜ。楽しませてくれよ、アルケー……!」 【勇侠青春謳・劍撃ノ参<諧謔>――了】 ■ ■ ■ このようにして、一人の放送屋が消えて、一人の戦争屋が舞台へ戻った。 笑う哂う藁藁う。戦争屋の声が響く。死に死に死に死ぬ死体は何も語らない。 そんな音声を背景に、こうして幕間の喜劇は閉じた。 【 ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』――了】 時系列順で読む Back crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(一) Next crosswise -black side- / ACT4 『逆光(ぎゃっこう)』(一) 投下順で読む Back crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(一) Next crosswise -black side- / ACT4 『逆光(ぎゃっこう)』(一)